芦生の森(あしうのもり)                    [京都北部] 765m

 

  職場の「山歩会」と「近自然工法研究会」の合同で「芦生の森」へ出かけた。残業続きで少々しんどい状態であるが、今回はマイクロバスでの往復に、森のガイド付き。高低差ももあまりないコースなので、何とかなるだろうと参加することにした。

 琵琶湖大橋を渡って、国道366号の梅ノ木で左折すると急に谷沿いの狭い道になる。針畑ルネッサンスセンターでガイドの藤山さんと合流して、登山口に向かう。ここまで予想外に時間がかかってしまい、予定より1時間遅れの出発となった。

 本日の参加者は13名。登山口のゲートの脇を抜け、地蔵峠を目指して林道を歩き始める。

 林道沿いの杉の幹にビニールテープが巻かれているのが目立つ。熊が杉の皮をはいでしまうのを防ぐためだそうだ。何で皮をはぐのかは諸説あるそうだが、とにかく熊密度は高いのだろう。
 ガイドさんは道の曲がり角では「ほーい」と声を上げて、熊と鉢合わせしないように気を付けている。

「クマハギ」防止のテープが巻かれた杉

 ガイドさんに「いい匂いがするでしょう。」と言われて、甘い香りが漂っているのに気が付く。林道横のコアジサイの花の匂いだった。

 コアジサイは好きな花だが、こんないい匂いがするとは初めて知った。ルーペを借りて花を拡大してみると、水色の花火のような美しさ。さすがに、ガイドつきのツアーは中身が濃い。 

コアジサイ
 ウツギの幹の空洞、クマシデの花穂、ブナの若い実、ササユリの花、ミズメの樹皮のサロメチールのような匂い、などを教えてもらいながらのんびり歩いていたら、地蔵峠まで小1時間もかかってしまった。

 峠で一息いれて、谷を下り始める。ここから京都府になり、京都大学の芦生研究林に入ったことになる。
 少し下ると枕谷に出合う。谷底が平らで杉林になっており、杉の根元を流れが幾筋にも分かれて洗っている。山道も水溜りが多いが、今日はガイドさんの指示により長靴を履いてきているので、構わず歩くことができる。

 杉林の中の中山神社を右手に見送ると、太い流れの上谷に出合う。これが由良川の最上流部で、今日はこれを源流の杉尾峠まで詰める。丸木の橋で上谷を渡った所が、上谷沿いに付けられている研究林の車道の終点になっている。

上谷の杉林
 両側にロープが張られたみごとな杉林を抜けると、右手に野田畑湿原が広がる。乾燥が進んでいて草原化しつつあり、あちこちに枝先に白い花を付けたヤブデマリが株立ちになっている。

 本来海岸地域にしか生えない黒松が、対岸の森から1本だけ突き出ている。明治時代頃まではここに木地師が住んでいたそうで、その黒松は木地師が植えたと言われているとのこと。

野田畑湿原
 
 今頃の森はあまり花が無いと思っていたが、樹木の白い花がよく目に付く。

 先ほどのウツギやヤブデマリの他にも、若葉の上にびっしり花を付けたヤマボウシ、蔓植物とは思えないほど太くなったツルアジサイ、小さな花がたくさん集まったタンナサワフタギ、ガイドさんに教えてもらったオオバアサガラなどなど・・・。梅雨時の森も賑やかだ。

 

オオバアサガラ
 
 岩谷出合付近の上谷が広くなったあたりで、待望の昼食。もう午後1時を回っていてガス欠寸前だ。沢水で顔を洗い、ビニールシートに寝転べば、頭上はトチやサワグルミの緑の大天蓋だ。実に気持ちがいい。

 毎度の事ながら、メンバーからいろいろ食べ物のおすそ分けが回ってくる。これだけで昼食になりそう。ガイドさんに淹れていただいた食後のコーヒーもおいしい。
 

サワグルミの新緑
 
 予定よりも遅くなっているので、ここからはザックを置いて空身で杉尾峠までピストンする。

 直ぐに巨大なトチノキに出合う。樹皮が剥がれた跡に現れるのうろこ模様が美しい。

 モリアオガエルの産卵場所も何箇所かあって、樹の枝にたくさん卵塊がついているが、卵の下にほどんど水が溜まっていないところもある。今年は雨が少ないそうで、おたまじゃくしが孵って落ちる頃までに、水が溜まるか心配になる。

トチノキの巨木の幹
 上谷は思っていたよりも広い谷で、森の感じはずいぶん明るい。トチやミズナラ、サワグルミなど水分を好む樹が多く、巨木も多くて見ごたえがある。

 ブナ林もあるのだが、林床にほとんど低木がなく、よく見られるチシマザサやスズタケなども生えていないので、奇妙な感じがする。
 

上谷のブナ林
 
 
源流近し
 
由良川のみなもと
 
 だんだん細くなる流れを何度か渡り、両側の斜面が迫って広かった谷が狭まってくると、由良川の源流も近い。
 もう少しで杉尾峠のたわみに出てしまう、というところに倒木が横たわっていて、そこが源流だった。文字通り「みなもと」で土の溝から水が滲み出してきている。

 そこからひと登りで杉尾峠。目の前の谷はもう福井県になる。若狭湾が見えるかもしれないと、左手の高みに上ってみたが、やはりもやっていて遠望は利かなかった。しかし、目的地の源流まで来られて皆満足そうな顔だ。
 

トチの根元の洞穴を説明するガイドの藤山さん
 
流れに洗われたトチの根っこ
 
 下りも同じ道を帰るのだが、向きが変わると違ったものが目に入る。熊が冬眠に使えそうな大きな洞のあるトチノキ。流れに洗われて籠のようになっているトチノキ の根っこ。咲き残りの鮮やかなヤマツツジ。
 遠くから「ヒョロロロロロロロ〜〜」というアカショウビンの声も聞こえてきて思わず頬がゆるむ。久しぶりのアカショウビンである。
 
 野田畑湿原のあたりは、行きの山沿いの道ではなく、湿原の中の流れに沿って歩く。見上げると先ほどの黒松が直ぐ近くにあって、こちらからの眺めが木地師の見た景色になる。

 まあ、当時とは植生はずいぶん変わっているだろうが、先ほど聞いた木地師の住居跡の石積みというのが見たくなる。

 

湿原横の流れ
 
 地蔵峠まで戻れば、後は林道を下るばかり。履き慣れない長靴で少々足に疲れが来た。
 マイクロバスまで戻って長靴を脱ぐと、靴の中に入っていたズボンの裾がまるで谷川に落ちたかのように、汗でびしょ濡れだった。

 「芦生の森」は予想外に谷が広く明るい森だった。由良川源流というイメージからくる鬱蒼とした原生林という感じではなく、広葉樹の明るい天然林だった。
 でも、四季折々の表情はきっと格別だろう。残雪の頃、トチの花の咲く頃、あるいはサワグルミの葉が黄色く色づく頃、また行ってみたいものだ。

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[山行日] 2005/6/18(土)
[天気] 晴れ
[アプローチ] 名神高速道路 栗東I.C. (R477)→ 琵琶湖大橋 →(R477、366)→ 大津市梅ノ木 (県道)→  高島市生杉、針畑ルネッサンスセンター (林道)→   登山口    [約70km]

・ゲートの前に20台ほどの駐車スペース。トイレ、休憩所あり。
[コースタイム] 11:10 登山口 (0:55) 地蔵峠 (0:15) 枕谷と上谷の出合 (0:45) 岩谷出合 (0:40) 杉尾峠 (0:40) 岩谷出合 (0:30) 枕谷と上谷の出合 (0:15) 地蔵峠 (0:40) 登山口 17:10   (計4:40)
[地図] 古屋、久坂 (1/25000)
[ガイドブック] 「大阪周辺の山250」 山と渓谷社

 

[温泉] 「比良とぴあ」 TEL:077-596-8388
・滋賀県滋賀郡志賀町北比良、志賀バイパス比良ランプそば。
・入浴料600円
・庭園露天風呂、サウナあり。シャンプー、石けん、ドライアーあり。
・あまり温泉らしい湯ではない。
・設備はいいのだが、ビールを売っていないのが残念。
[ガイド] ・今回、案内をお願いした、京都府美山町で山のガイドをやっておられる、藤山さんのHP「芦生の森、美山から」

   
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