明神岳( みょうじんだけ1432m桧塚奥峰(ひのきづかおくみね) 1420m        [台高] 

 

  池木屋山に登る予定だったが、出発当日にインターネットで調べていたら、4月30日から池木屋山で行方不明になっている人がいるのが分かった。捜索中のところを能天気に登るのは気が引けるので、近くの桧塚に変更することにした。
 3時に家を出発。松阪インターで高速を下りて、飯高の道の駅で腹ごしらえ。蓮ダムを過ぎる頃にはあたりは暗くなってしまっていた。夜の狭い林道を走るのは怖い。しかも途中から未舗装道路だ。慎重に車を進め、なんとか登山口に到着。大宮ナンバーの車が一台止まっていたので、林道を少し戻って路肩に止める。コンビニで買ってきたウイスキーを少しあおって寝る。

 5時少し前に目が覚め、ラーメンを食べて出発。寒いのでフリースを着たまま歩く。昨夜の大宮ナンバーの車の横では2人の男性が出発準備をしていた。沢登りのような格好をしている。挨拶をして登山道に入る。
 木屋谷川の右岸に付けられた道を、流れを見下ろしながら進む。シャワークライムのツアーも行われる沢で、小滝が続く渓相は変化に富んでいて楽しそうだ。
 左から流れ込むわさび谷を渡り、対岸の斜面を登る。木屋谷川の谷底からはかなり高いところをなおも上流に進むが、道はだんだん下ってまた沢に近づいてくる。

わさび谷
 

 小さな尾根を回り込むと目の前に岸壁が迫ってきて、川幅が急に狭くなる。
 奥山谷出合らしいが、谷をわたる橋が落ちている。少し戻るとロープが垂れていて、これにつかまって、沢に下りる。飛び石伝いで上流に進み、両又の尾根に取り付く。増水しているとちょっと嫌なところだ。 

奥山谷(左)、木屋谷川(右)
奥山谷の上に橋の残骸が残っている
 

 奥山谷沿いの道は基本的には左岸についている。しかし所々崩壊していて、沢筋まで降りたり、斜面を高巻いたりしなければならない。落ち葉や崩れで踏み跡がはっきりせず、赤や黄色のテープを頼りに進む。
 周りはミズナラやカツラなどの落葉樹の森で、道沿いにはやたらハシリドコロの花が目立つ。北向きなのでまだ陽が射さない谷に、ミソサザイの複雑な節回しのさえずりが響く。

奥山谷沿いの道
 

 一度右岸に渡り、再び左岸に渡り返すと谷が広くなったところがあり、炭焼き窯の跡が残っていた。ここまでにもいくつか窯跡があったが、よくもまあ、こんな山奥まで炭焼きに来たものだ。
 まだ木々の芽吹きには早く、あたりはコバイケイソウの葉っぱが明るい春の緑色をしている。

 ここから沢は向きを変え、明神平に登っていく。ひとしきり急斜面を登ると傾斜が緩くなり、門のような岩が迫る枯れ沢を抜けると、明神平に出た。 

 

林間のテント群
 
三つ塚への登りから明神平を見下ろす

  驚いたことに、林間にはたくさんのテントがあった。20張り以上あるだろうか、明るい林で水場も近いし、いい幕営場所なんだろう。テントの近くでくつろいでいる人、散策している人など様々で、ここまで一人の登山者にも会っていないので少々戸惑ってしまう。奈良県側からは比較的楽に明神平まで上がって来られるようだ。

 林の向こうには草原が広がり、全く違う空間になっている。噂には聞いていたが、まさしく別天地だ。新緑や紅葉の頃はさぞ素晴らしいだろうが、今はまだ裸木ばかりで少々寂しい感じがして残念だ。
 鞍部には古びた小屋が1棟、少し高みに東屋と天王寺高校の山小屋が建っている。信じがたい事だが、かつてはスキー場があったそうで、リフトの跡らしい錆びた鉄製の枠が 草原の真ん中に残っている。
 

 明神平からは広い稜線を三ツ塚に登る。三ツ塚や前山一帯は背の低い草原で、公園の芝生広場のようだ。山の上にこんな所があるとは信じられない。トウヒの幹に鹿の剥ぎ跡があったが、草原を維持しているのは鹿だろうか。

 三ツ塚から明神岳への稜線は、一変して右手が切れ落ちた深い谷になっている。木の間越しに見えるのは大峰や大台ケ原の山だろうか。

三ツ塚付近(遠景は伊勢辻山か?)
 

 明神岳の山頂は狭く長い稜線の緩やかな高まりで、小さな山名のプレートのほかは何もない。昔は北アルプスの穂高明神の祠があったそうだが、それらしきものは見当たらない。

 山頂を少し過ぎたところに桧塚への小さな標識が出ている。これに従い、ブナの広い斜面を東に下っていく。

塚への分岐
 

 桧塚奥峰へ続く尾根も広い尾根で、ブナ林の下を一面に低い笹が覆っている。 見事なブナ林ではあるが、ブナ稚樹が全く見られない。潅木もほとんど生えていない。昔登った天城山のブナ林も下草がなくてこんな感じだった。このままだとこのブナ林はどうなってしまうのだろう。
 ブナの芽吹きにはまだ早く、楽しみにしていたシロヤシオもまだ咲いていない。一面枯れ葉色の世界で、高曇りの弱い光の中を歩いていると、なんだか冬の雑木林を歩いているような錯覚に陥る。 ピチピチと鳴きながら枝先を伝っていくカラの群れもよけいにそんな感じにさせる。
 

桧塚奥峰から南東の展望(右端が明神岳)
 

 気持ちはいいが少々単調な森歩きの先に桧塚奥峰のピークはあった。山名板は木立の中だが、少し南に行くと岩場があって南側の展望が開ける。
 目の前の尾根もこちらの尾根と同様、笹に覆われてなだらかに広がっている。その向こうが台高山脈の主稜線で、その背後には大峰の山々が霞んでいる。周辺の地図を持ってこなかったので、登る予定だった池木屋山はどのピークだか分からない。ここからの眺めは高度感があって、なんだか鈴鹿の御池岳のボタンブチのようだ。

 おにぎりを食べていたら桧塚の方から夫婦連れがやってきた。池木屋山が分かるか聞いてみたら、おそらくあれだろうと指差してくれる。
 聞けばこの御夫婦も池小屋山に登る予定を遭難騒ぎで変更したのだそうだ。池木屋山では最近も滑落事故があったそうで、今回の行方不明の方もまだ見つかっておらず、捜索が続いているとのこと。無事を願わずにはいられない。

奥峰からの眺める桧塚
 

 奥峰からも笹原の気持ちのいい稜線をたどって桧塚へ。桧塚の山頂は樹林の中で展望はない。

 山頂にいた4人連れのグループからシャッターを押してくれと頼まれた。彼らは旗を掲げて写真に納まったが、その旗は関西方面の山情報を検索するとよく出てくる「いろり」グループのものだった。コースを聞けば、桧塚の東からの尾根を登り、笹ヶ峰の方を回って縦走するという。個性的な山歩きをしていると感心する。

塚奥峰とタムシバの花
 

 稜線をマナコ谷登山口への分岐まで戻る。一面枯れた笹原ではあるが、よく目を凝らしてみると、背丈数センチの小さなスミレやヒメイチゲの花が笹に埋もれるように咲いている。よく見ないと分からない程度の春といったところか。

 分岐からは笹の尾根を下る。笹原の中に白くなった切り株が残っているところを見ると、以前はこの尾根も森だったのだろうか。笹原を下りきった所からはヒノキの植林地が始まっているので、ここもいずれは植林されるのかもしれない。

 植林地に入ると登山道は作業道を何度も横切る。テープが導いてくれるが、植林小屋の前は危うく行き過ぎるところだった。小屋の手前を左に下るのだが、下山時には分かりにくい。

マナコ谷から尾根を登ってくるグループ(背後は高見山)
 


 ヒノキからスギに変わり、植林地はどこまでも続いている。搬出せずに倒したままではあるが間伐もされていて、こんな山奥なのによく手が入っている。作業道も整備されていて、さすが林業の盛んな所だと感心する。
 道端になぜかヒトリシズカが団体で咲いている。

 少しずつ谷の音が近づいてきて、植林地が尽きたところで林道に出た。路肩には三重ナンバーの車ばかり5台止まっていた。 

ヒトリシズカ
 

 来るときとは怖かったが、明るい時に通れば狭いながらしっかりした林道だった。山の上は春まだ遠しという感じだったが、林道沿いは新緑も鮮やかでヤマブキやヤマツツジが彩を添えている。
 きっと道の駅の温泉は混んでいるだろうと思い、途中のホテル・スメールの温泉で汗を流す。時間が早いこともあって、こちらはまだすいてた。

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[山行日] 2007/5/3(木・祝)〜4(金・祝)
[天気] 晴れ
[アプローチ] 3日 東名阪 松阪IC (県道)→ 松阪市丹生寺町 →(R166号)→ 松阪市飯高町森 (県道569号)→ 蓮ダム (林道)→ マナコ谷登山口       [約60km]
・車中泊
・路肩に駐車。7〜8台は駐車可。
[コースタイム] 4日 5:40 マナコ谷登山口 (0:25) わさび谷出合 (0:30) 奥山谷出合 (1:05) 炭焼き窯跡 (0:35) 明神平 (0:30) 明神岳 (0:40) 桧塚奥峰 (0:15) 桧塚 (0:10) 尾根下り口 (0:25) 造林小屋 (0:35) マナコ谷登山口 12:15   (計5:10)
[地図] 大豆生 (1/25000)
[ガイドブック] 新・分県登山ガイド「三重県の山」 山と渓谷社

 

[温泉] 香肌峡リゾート ホテル・スメール「香肌の湯」
・松阪市飯高町森。TEL 0120-57-0003
・入浴料700円。
・鉄泉のような赤茶色のお湯。
・露天風呂もあるが、屋根が掛かっていて開放感がないのが残念。
・シャンプー、石けん、ドライアーあり。

   
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