鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)、2890m 五竜岳(ごりゅうだけ)、2814m  [北アルプス]


 五竜まで行くかどうかは、ずいぶん迷った。
 1日目の扇沢から冷池山荘まではコースタイムで6時間弱。ガイドブックでも比較的登りやすい登山道とあったにもかかわらず、爺ヶ岳の登りでジリジリと陽に焼かれ、かなり苦しい思いをした。こんな調子では五竜への長丁場はとても無理だナと思い、冷池山荘に着いたときには
「鹿島槍ピストンで赤岩尾根下山」
と決めていた。
鹿島槍ヶ岳 (爺ヶ岳の登りから)

  しかし、同行の女房が五竜山荘から来た人の話を聞きつけ、行ってもいいと言い出した。その人は朝5時ごろ五竜を立ち、2時すぎに冷池まで来たらしい。他に何組も10時間位で着いているようだ。五竜から来ても冷池から行ってもコースタイムはほぼ同じで、むしろこちらからの方がやや短い。
 コースタイムは9時間10分。バテバテになった上高地から槍ヶ岳の1日目や、徳沢園から登り、暗くなってから小屋にたどり着いた常念が思い出される。しかし、天候に邪魔され、唐松岳で引き返してしまった前回の逆コースからのトライの悔しさも湧いてくる。幸い雷はここ何日かは鳴っていない様子で、天気予報でも大気の状態はますます安定してくると言っている。
 散々迷ったあげく、朝3時半起床、4時出発、鹿島槍で体調が悪かったら引き返すということで、五竜に向かうことにした。

鹿島槍からキレットへの下り キレットの底 五竜の登りからG5の岩峰を振り返る

 鹿島槍南峰には、途中、食事をとったにもかかわらず、予定の7時よりも早く着くことができた。体調はいい。山頂はガスが湧き、北峰すら見えなかったが、気力充実でキレットへの下りにかかった。
 下りはいきなりガレ場で、後続の人が起こした落石が女房をかすめてドキリとした。北峰は時間が惜しいので登らず、ひたすらキレット目指して下った。キレットまでは急ではあるがさほど歩きにくい道ではなく順調に下ったが、キレット近くはさすが後立縦走の核心部と言われるだけあって、きびしい道になってきた。キレットはハシゴを下り、クサリを渡り、信州側へ出て、またハシゴを2本登るといったコースで、ハシゴやクサリ自体は短いが両側が切れ落ちて高度感がものすごい。足がすくんでしまわないよう、なるべく下を見ないようにして通過した。

 キレット小屋を通過した後も道は険しかった。丁度、五竜山荘から来る人とかち合い、すれ違いに時間がかかることもあったし、クサリのアップダウンも激しかった。
 口ノ沢のコルあたりから五竜の手前に立ちはだかる黒い岩峰が気になってくる。幾つかの小さな岩を越えてその下に立ったとき、巻き道が無く、その岩峰を越えていくのが分かって少々驚いた。峰の先はほとんど岩壁に見え、本当に一般道なのかと思った。しかし、岩峰に取り付いてみればルートはペンキできっちり表示され、運良く下って来る人もなく、手足を使っての岩登りは少々スリルもあって爽快であった。
 ただその後も岩の尾根は続き、気を休める余裕はない。五竜の最後の登りもなかなかのもので、クサリも多かった。
五竜(左端)まで岩峰が続く

 五竜岳には1時過ぎに到着。ほぼ予定通りで、暑くなる前にたどり着けてほっとした。昨日に比べて風があり、ガスも湧いて日差しが遮られて涼しかったし、谷底が見えにくくて怖さが少なかったのも順調に来られた理由だろう。ただ、それだけに展望がきかず、五竜からはわずかに逆光気味の剣、立山が望まれただけだった。

 ひと下りで五竜山荘に到着。山荘の前に木のテーブルがあって、缶ビールを飲みながら鹿島槍からのロングランの充実感を味わう。東側の谷の源頭に雪渓が広がりのびやかな気分になる。いくら待っても五竜はガスの中で、姿を見せなかった。

五竜山荘。左後方は唐松岳 五竜岳は山頂の雲がとれなかった(八方尾根から)

 翌日もまた、前日に増して濃いガス。「唐松は今日もガスだった」という感じで、前回とほとんど同じ。唐松小屋手前の岩稜はクサリも多くてなかなか険しい。悪天候時の巻き道も見つからず、尾根通しに歩き、黒部側からの強い風にも吹かれて、少々怖かった。

 八方尾根を下るのは2度目。前回は何も見えなかったので、八方池あたりから不帰ノ嶮や白馬岳が見えたときは感激した。しかし、観光客や中学生の団体など人が多いのには閉口し、リフトとゴンドラで早々と下山してしまった。


[山行日] 1995/7/29〜8/1(1日目車中泊)
[アプローチ] 長野自動車道豊科I.C. →(R147)→ 信濃大町 → 扇沢 [約45km]
夜9時半ごろ到着した扇沢の無料駐車場は、すでにほぼ満車だった。下山後は、列車とバスを使って扇沢に戻り車を回収する。
[コースタイム] 30日 扇沢 (3:40) 種池小屋 (1:00) 爺ヶ岳 (1:00) 冷池小屋 (計5:40)
31日 冷池小屋 (1:45) 鹿島槍ヶ岳南峰 (1:40) キレット小屋 (1:35) 北尾根の頭 (2:00) 五竜岳 (0:50) 五竜山荘 (計7:50)
1日 五竜山荘 (2:15) 唐松山荘 (1:35) 八方池 (0:35) 八方池山荘 (計4:25)
[地図] 立山、大町、白馬岳 (1/50000)
[アドバイス] キレット小屋では水は分けてもらえない。ジュースは売っている。
[小屋] 冷池山荘
・宿泊者には一人1リットルの水券が渡される。
・洗面所の水はちょろちょろしか出ず、なかなか顔も洗えない。
・ザックを通路に置くしかなくあまり快適ではない。
・しかし、意外に皆早く就寝し、消灯の8時半よりかなり早く暗くなった。
五竜山荘
・宿泊者は水は無料。夕食はカツカレー、どうも前日も同じメニューだったらしい。
・部屋は8人部屋に6人だったが余裕があった。
・食堂も余裕がある。テーブル、イスは白木の集成材。

   
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