鞍掛山( くらかけやま)                        [奥三河]   883m

 

  友人の奥さんのお見舞いに行く予定だったのだが、体調が悪いということでお断わりの電話が入った。ぽっかり1日空いてしまったので、先月登り損なった奥三河の鞍掛山に出かけることにした。

  県道の路肩に、先月と同じように車を止めて歩き始める。先月は歩き始めてすぐ雨が降り始めたが、今日は風は強いものの、いい天気。路肩の落ち葉の上に薄っすらと雪が積もっている。昨夜の雨はこのあたりでは雪だったようだ。

  20分ほどで仏坂トンネルの入口に到着。東海自然歩道の大きな案内板を横目に見て、薄く雪の付いた鉄の階段を登る。 雪の上に足跡がないので、今日は誰も歩いていないようだ。東海自然歩道だけあって桟道などもよく整備されている。

  峠に近づくと山道の脇に石仏が現れる。観音様のようだ。小さな立て札に三十三観音とあるので、全部で三十三体あるのだろうか。この石仏が仏坂峠の名前の由来になっているとのこと。また、この峠道は江戸時代に信州へ続く街道の一つであったらしい。
  古びた石仏が多いが、真新しいのもあって、三十番の一如(いちにょ)観音の台座には「平成15年12月連谷愛護会」とあるのでつい最近据えられたようだ。

仏坂トンネル脇の登山口
 

  仏坂峠にも幾つか石仏や石塔が立っている。ここからは東海自然歩道と分かれて北へ続く踏み跡をだどる。 東海自然歩道は鳳来寺山から岩古谷山までアップダウンの激しい稜線をたどっており、東海自然歩道の三大難所と言われているが、仏坂峠から鞍掛山の間だけは稜線を外れて山麓を通っている。
 踏み跡は稜線を忠実にたどっていて、時々山腹へ伸びるわき道があるが、基本的には稜線の道が正解のようだ。踏み跡は割合しっかりしており、赤布も所々下がっているが、今日は薄っすら雪が積もっていて、ちょっと分かりにくいところもある。リョウブ、コナラ、アセビなどが密に生えていて、展望は利かない。 このシーズンにはお馴染みのミヤマシキミの赤い実が、薄日を浴びて輝いている。

  赤松の大木が現れ始めると、急登は収まって小さなアップダウンが続く稜線歩きになる。一箇所大岩を下る所がいやなだけで、あとは危険な所もない。 東海自然歩道と比べれば少々ワイルドだが、普通の山道とあまり変わりはない。こんなところにも植林がしてあるのか、杉や桧が多い。
 

珍しく左手の雑木林越しに宇連山の方角が透けて見えると、771mの標高点に到着。 目の前にピークが二つ並んでいて、左側が鞍掛山の888mピークのようだ。

 ここは道を間違えやすい所らしく、行く手をさえぎるように細い木が横たえてあり、小さな標識が折り返すような感じで右手の山腹を指している。 標識に従って北斜面の凍った急坂を慎重に下りる。

左側が888mピーク
 

  鞍部からは先ほど見た右手のピークを登るようになるが、途中で左手の山腹を巻き、小さな鞍部を越えて888mピークの登りになる。急登で、木の根や幹をつかんで体を引き上げる。しんどいが、ここが今日最後の登りになると思 うと、多少、力も出てくる。

  たどり着いた888mピークは南向きで陽が当たって暖かい。背後の桧林は北風を受けてゴーゴーと音を立てている。鞍掛山の山頂は細長く伸びたピークの北端にあるのできっと寒いだろうと 、ここで昼食にする。

宇連山を望む
 
大代の集落を見下ろす
 

  南の方角だけが開けていて、アップダウンの激しい稜線の先に宇連山がよく見える。左手の潅木越しに、三ツ瀬明神山が蟹のはさみのように双耳峰を突き上げている。東側は山また山。 南端の本宮山だけは山頂にアンテナが林立しているのでそれと分かるが、あとはさっぱり分からない。眼下に大代の集落が見え、その向こうには伝統芸能の田楽で有名な田峯(だみね)の集落が、山上に開けた平坦地にへばりついている。

  宇連山の山頂の両側が妙に明るいので、双眼鏡で覗いてみると太平洋の波が光っているのだった。おー、遠州灘が見えるのか。ちょっと感激。海までは随分距離があるし、そんなに高い山ではないのに 、意外によく見えるもんだ。
 

 鞍掛山の三角点まではなだらかで広い稜線を行く。ちょうど鞍掛山の「鞍」の緩いたわみの上を歩いていることになる。桧林の中なのだが冷たい北風が吹きぬけてとても寒い。なぜか背丈ほどの岩がごろごろしている。

 途中、「馬桶岩」という看板があったので、ちょっと道をそれてみる。20mほどのところに、平らな岩の上が丸くくぼんだ岩があった。くぼみは洗面器のような感じで水が溜まっていて、これを馬桶に見立てたのだろう。水がしっかり凍っていた。

馬桶岩
 

  鞍掛山の山頂は想像通り寒かった。雪が積もった休憩所は日陰でいかにも寒そうだ。山頂の標識のあたりは、こ こも大きな岩が重なっている。ガイドブックには樹間から岩古谷山の方面が見えるとあったが、樹木に覆われて展望はない。少し北側へ丸太階段を下りてみるが展望が開けそうな感じがないので、山頂に引き返す。あたりを見回し、樹冠の薄そうなところを探してみる。山頂の標識の後の大岩に登ってみたら、わずかに大鈴山と思われる山頂が見えた。これがガイドブックに言わせると「樹間越しに展望が開ける」というやつだろうか。ちょっと、無理があるよなあ。せっかく今日は空気が澄んで遠くが見えるのに。

 ガイドブックでは仏坂峠からのピストンのコースとして紹介されているが、また同じ道を戻るのはバカバカしいので、東海自然歩道を使って大代に下りる。

 山頂手前の分岐から西側の九十九折の斜面を下る。気持ちのいい雑木林はすぐに杉や桧の植林地に代わってしまう。東海自然歩道だけあって標識などもよく整備されているが、階段が多くて歩きにくい。

下り始めは雑木の道
 

  傾斜が緩くなって、よく手入れのしてある植林地になったのでもう麓に着いたのかとおもったら再び尾根道になった。地図を見ると中腹に台地状の部分が広がっていて、そこが一面植林地になっているのだった。
  さらに下ると「かしやげ峠」という標識の立つ場所に出た。「かしやげ」とはどういう意味だろう。ベンチのほかに石仏や石碑が立っていて、その一つには「山崩遭難供養塔」とある。山麓に広がる千枚田は山崩れの跡を開墾したものと解説版が立っていたが、そのことを指しているのだろうか。石碑の文字を読むと、明治期の災害を供養するために昭和になってから建てられたものらしかった。

かしやげ峠の石碑
 

  峠から少し下ると分岐があり、左の細い巻き道に入る。農家の庭先をかすめて車道に出ると右下に千枚田が見下ろせる。ここには駐車場やトイレも作ってあった。昔の地図では水産試験場があったようだがその跡地だろうか。車道をたどって車まで戻る。

  年の暮れということもあるのだろうが、今日は一人もハイカーに会わない静かな山歩きだった。もう少し展望があるといいコースなんだけれど。

千枚田から888mピーク(左)を見上げる


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[山行日] 2003/12/27(土) 
[天気] 晴れ時々曇り
[アプローチ] 岡崎 →(R1)→ 国府 →(県道)→ 新城 →(R151、R257、県道32号)→ 鳳来町大代  [約70km]
[コースタイム] 県道32号の鞍掛山登山道分岐 (0:20) 仏坂トンネル (0:20) 仏坂峠 (0:35) 771mピーク (0:40) 888mピーク (0:15) 鞍掛山山頂 (0:50) かしやげ峠  (0:20) 県道32号の鞍掛山登山道分岐   (計3:20)
[地図] 海老(1/25000)
[ガイドブック] 分県登山ガイド 「愛知県の山」 山と渓谷社

 

[おまけ1] 馬桶岩(まおけいわ) 
・馬桶岩のくぼみの水は夏の干ばつにも枯れたことがないと言い伝えられており、干ばつが続くとここで雨乞いが行われるとのこと。
[おまけ2] 仏坂峠、かしやげ峠
仏坂峠は鳳来町海老と東栄町神田(かだ)を結ぶ峠で、信州へ通じる振草街道の一部。
かしやげ峠は鳳来町海老から設楽町塩津、田口へ抜ける峠で、江戸時代の伊奈街道のひとつ。海老と田口を結ぶコースは与良木(よらぎ)峠を越えるものと、鞍掛山の山麓伝いに大代、かしやげ峠、塩津とつなぐものとあったらしい。また、かしやげ峠は天正元年(1573年)野田城合戦のとき、病に倒れた武田信玄が甲斐の国へ引揚げた道だとも言われている。
[温泉] 鳳来ゆ〜ゆ〜ありいな tel 0536-32-2212
・愛知県南設楽郡鳳来町能登瀬字壱輪23-1
・入浴料600円。
・営業時間10:00〜21:00。火曜定休。
・露天風呂。石けん、シャンプー、ドライヤーあり。
・温水の25mプールも併設されていて、+500円で利用できる。
・もう少し露天風呂から周りの山が見えるといいのだけれど。

   
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