籾糠山( もみぬかやま)                    [白山周辺] 1744m

 

 籾糠山は飛騨・白川郷の近くの山。とくに目立つ山ではなく、有名でもないが、近くに天生(あもう)湿原があるので、以前から行ってみたい所のひとつだった。
登山口は天生峠。こちらのほうは籾糠山よりも多少は有名。泉鏡花の「高野聖」の舞台だそうだ。これを機会にあらすじだけ調べてみたら、ちょっと怪奇っぽい話だった。

 遠い山で、車中泊でないと行けないと思っていたが、職場の山のグループ「山歩会」が日帰りで行くと言うので、同行することにした。

 荘川ICで高速を降りて、白川郷に向かって走り始めたら、路側の道路情報板に「白川郷〜天生峠通行止め」とある。グループの一人が白川村役場に電話したところ、今年は積雪の被害による道路の復旧工事が遅れていて、まだ通れないとのこと。相談の結果、引き返して清見ICまで走り、河合村側から天生峠へ登ることにした。

 小鳥ダム沿いを走る道は、天生の集落からは国道になるが、これでも国道かと思われるほど急勾配のつづら折れが続き、どんどん高度が上がる。落石が起こりそうな斜面に付けられた細い道で、通行止めのために対向車が来ないことがかえってありがたい。

 天生峠には7、80台は止まれそうな大きな駐車場があり、天生湿原の人気の高さを窺わせる。でも今日は梅雨の最中の貴重な晴れ間にもかかわらず、10台ほどの車しか止まっていない。ミズバショウの時期にはもう遅いからだろう。

 

  身支度をしてまず湿原を目指して出発。総勢10人のパーティーだ。昨年の暮れ、熊野古道を歩くときに参加したことがあるが、山は初めてなのでどんなペースで歩くのか心配だったが、何とか付いていけそうだ。

 しかし、写真を撮っているとすぐに置いていかれてしまう。足元のマイヅルソウが誘うので、まあいいや、と最後尾からぼちぼち行く。

マイヅルソウ
 

 わずかに登っただけで天生湿原に着く。匠屋敷跡という湿原に出っ張った小島のようなところで休憩。何が祀ってあるかわからないが、小さな祠がある。

 湿原は想像していたよりも乾いた感じで、池塘などはない。湿原の端にコバイケイソウ、ツマトリソウ、タテヤマリンドウが見られるくらい。でも、山上の湿原はいかにも北の山に来たなあという感じで、うれしくなる。籾糠山の山頂は前山に隠れて見えない。
 

タテヤマリンドウ
 
天生湿原
 
 湿原を取り巻く木道をたどって籾糠山へ向かう。一旦沢筋へ下ると、一面のミズバショウの葉っぱ。花の頃はさぞ壮観だろう。同行の人は4回目だそうで、ミズバショウの開花は6月の初旬の道路開通直後だそうだ。
 
 

 小沢を渡ると根上がりのカツラの大木があった。身をかがめれば、根元の空間に入り込めるくらい大きい。

 見渡せばこんなカツラが何本も立っている。足元は一面の羊歯に覆われ、見上げれば新緑。全て緑の中に黒々とカツラの大木が立っている様子は、太古の世界に紛れ込んだ感じさえする。いい森だ。

カツラの大木
 

 
 

 4回目の案内人に導かれて、登山道を離れてミズバショウの湿地に向かう。このあたりはブナの森で、こちらの感じも明るくていい。森を見るためだけに来ても十分満足できそうなところだ。

 ブナの森の先の湿地は意外に広い。こちらのミズバショウももう咲いてないが、鳥の声だけが聞こえる静かな別天地だ。

ブナ林を抜けてミズバショウの湿地へ
 
 登山道に戻って、谷川沿いの道を行く。予想外に明るい谷で、ミソサザイの声が高く響いている。この谷は花が多い。久しぶりのキヌガサソウをはじめ、サンカヨウ、リュウキンカ、ツクバネソウ、ヤブラン、ミヤマカタバミなど賑やかだ。ムラサキヤシオも彩を添えているし、初めて見るミドリヤブランなどもある。
 
サンカヨウ
 
リュウキンカ
 
ツクバネソウ
 
 木平湿原の分岐近くで休憩した後、沢を離れて最後の登りにかかる。このあたりからはシラビソなどの針葉樹の森になる。風が通らなくて暑い。もう12時を過ぎているので、下山してくる人も多い。
 
 最後の急登をあえぎながら登り、結局どんじりで山頂に到着。南北に細長い山頂はあまり広くなく、すでにかなり混み合っている。

 東の方角が開けているが、北アルプスの大展望はもやの中。背後には猿ヶ馬場山が大きく横たわっていて、白山の方角を隠している。
 久しぶりに持ってきた20万図は役立たずで、北の三ヶ辻山、南の御前山がなんとなくあれかなあ、と分かるくらいだ。 

猿ヶ馬場山
 

 帰りは途中の分岐から木平湿原のコースを取る。日差しのきつい緩い斜面を上がっていくと、突然湿原が開ける。ブナやダケカンバに囲まれた小さな湿原だ。

 山上にあるにもかかわらず水が多くて、浅い池塘のような感じにもなっている。ミズゴケの上にはモウセンゴケがたくさん生えている。

 下の天生湿原にもあったが、水位観測でもしているのだろうか、湿原の中に塩ビのパイプが立ち、木道のそばにはプラスチックの箱が置いてある。 

木平湿原
 

 天生湿原への下り道もブナの森の中。気持ちのいい道だと思って歩いていると、どうも葉っぱの少ないブナが目に付く。籾糠山の山頂から見下ろしたときも白い枝が見える樹が多くて、芽吹きの遅いダケカンバだなと思っていたが、どうもこのブナのようだ。

 4回目の案内人曰く、4年に1度発生するブナアオシャチホコという蛾の幼虫に食われたのではないか、とのこと。食われた木は今年はもう葉を出さないのだろうか。
 

 天生湿原は帰りは湿原の西側の木道を通る。湿原の出口近くにもう一つ湿原があって、こちらの方が湿っているようだ。低みの流れの近くにはミツガシワも咲いている。遠すぎて写真が撮れないのが残念。

 4時過ぎに駐車場に到着。暑かったが、森が豊かで満足できる山だった。

 7月にはニッコウキスゲも咲くらしい。ミズバショウや紅葉の時期もいいだろう。4回とは言わないが、また来たいところだと思う。

コバイケイソウ

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[山行日] 2003/6/21(日) 
[天気] 晴れ
[アプローチ] 東海北陸自動車道清見I.C. (県道90号)→ 天生 →(R360)→ 天生峠   [約30km]
・天生峠には大きな駐車場あり。トイレ、休憩所もある。
 
[コースタイム] 天生峠 (0:25) 天生湿原・匠屋敷跡 (1:00*ミズバショウ湿地ピストン含む) 木平湿原分岐 (0:35) 籾糠山山山頂 (0:30) 木平湿原分岐 (0:20) 木平湿原 (0:25) 根上がり桂の大木  (0:35) 天生峠    (計3:50)
[地図] 谷、平瀬(1/25000)

 

[ガイドブック] アルペンガイド「白山と北陸の山」 山と渓谷社
 
[温泉] (おうか)の湯  
・荘川ICすぐそば。道の駅「桜の郷荘川」に併設。
・入浴料700円。タオル、バスタオル付き。
・露天風呂、打たせ湯、フローティングマシン、石けん、シャンプー、ドライアーあり。

・弱アルカリ泉のヌルッとしたお湯。
・木曜定休。営業時間10:00〜21:30。

   
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