ニュウ2352m、中山(なかやま)2496m              [中信・八ヶ岳] 

 

 北八ツの白駒池の南に「ニュウ」という山がある。地形図にはカタカナでニュウとあり、ちゃんと三角点のある山だ。奇妙な山名で、以前から気になっていた。それにしても「ニュウ」って何だ?
 三省堂の「コンサイス日本山名辞典」には、
「にゅう」
(入):稲束を積んだものを「にお」「にう」と呼び、山容がこれに似ているものをさす。
とある。稲束を積むとどんな形になるのかが書いてないので確信はないが、おそらく円錐状の尖った形を指すのだろう。
 最近はコンバインで稲刈りをするので、稲束を積むことはないが、以前は家の近くの田んぼでは、刈り取った稲束を円柱状に積み、その上を円錐状に仕上げて、冬中、田んぼに置いていた。こちらでは これを「すずみ」と言っていた。子供の頃にはよくそのすずみに登って遊び、怒られたものだ。
 ガイドブックによると、ニュウは岩峰で、尖った形が稲束を積んだ「にゅう」に似ているのだろう。その岩峰から、眼下に広がる北八ツの原生林を眺めたくて、出かけることにした。

 前泊した美し松のコテージに女房と犬を残して、ひとり麦草峠に向かう。峠を越えた先の白駒池入口の駐車場に車を入れる。有料なのがくやしいが、人目がある方が車上狙いに遭わなくて済むだろうと、自分を納得させる。

 駐車場から白駒池への遊歩道に一歩入ると、そこはもうコメツガやトウヒの原生林。岩も倒木も苔に覆われ、まさに北八ツらしい森だ。
 道路には全く雪は残っていなかったが、森の中の苔の上には、あちこちに残雪がある。遊歩道の上にも、踏まれて板状の氷となって残っている。

 白駒池はさすがに凍ってはいないが、ダケカンバに新緑はなく、まだ寒々しい感じ。こんな季節なのに、池にボートが一艘浮かんでいるのには驚いた。
 白駒荘の前を通り、右回りに池のほとりを半周すると稲子湯への分岐に着く。

白駒池のボート桟橋
 

 分岐から森に入ると、一層残雪が多くなった。登山道も雪に埋もれていて、わずかに黒ずんだ先行者の踏み跡をたどる。テープもたくさん付いていて、方向を教えてくれる。
 分岐から15分程で白駒湿原。湿原にもまだ花はない。暗い森から、急に明るい湿原に出て目がくらむが、すぐにまた森の中に入る。

白駒湿原
 

 道はずっと雪の下で、踏み跡は右に左にと森を縫って続くものだから、少々不安になってきた頃、ニュウへの分岐に着いた。

 分岐からは雪がなくなり、岩の道になる。しかし岩の上には木の根がからみ、これも滑りやすくて歩きにくい。
 

ニュウへの分岐
 

 ひとしきり山腹をトラバースする感じで登ると、広い稜線のようなところに出て、再び左から稲子湯からの道を合わせる。少し登ると岩を積み上げたようなニュウの岩峰の下に出た。

ニュウの岩峰を見上げる
 


 岩峰によじ登ってみると、360度の展望が広がる。北側は想像したとおり、すぐ足元から原生林が広がる。
 左手の中山や丸山から緩やかに原生林の斜面が広がり、白駒池が「何でこんなところに水面があるんだろう。」といった感じで水を湛えている。

ニュウ北側の原生林と白駒池
 

 東側は八ヶ岳の山麓が広がり、その向こうにあるだろう奥秩父の山々は雲に隠れている。 ニュウは北八ツで唯一?富士山が見えるピークらしいが、残念ながらこれも雲の中。と思いきや、硫黄岳の山かげに薄っすらと残雪の縞模様の富士が見えていた。奥秩父の方向を探していたのだが、もっと南であった。

 北側はすっぱりと断崖が切れ落ちている。この崖線は天狗岳の西側の崖に続き、硫黄岳あたりまで延びている。八ヶ岳が噴火活動をしていたころの火口壁かと思ったが、平安時代に稲子岳から天狗岳にかけて、山体が崩壊した跡らしい。

 目の前の稲子岳はその時ずり落ちたということで、現在はこちらの稜線との間に、下の写真のような舟底形のくぼ地ができている。
 この崩壊が起きた時に、岩屑なだれが発生し、その堆積物が千曲川をせき止めて松原湖をつくったと言われているらしい。

稲子岳の向こうに天狗岳の崖が見える
 

 雄大な眺めを満喫して、中山に向かう。
 稲子湯の分岐から残雪が消えたので、稜線上はもう雪はないだろうと思っていたが、とんだ間違いだった。稜線とはいえ、ずっと森の中で、標高が上がるにつれて当然気温が低く、残雪は多くなるばかりだった。
 歩いていると時々雪を踏みぬいて、膝までもぐってしまう。6月なのでそんなに残雪はないだろうと思ってスパッツを持ってこなかったので、ズボンの裾はびしょ濡れだ。裾がスパッツの代わりに靴の中に雪が入るのを防いでくれているが、布製のトレッキングシューズなので、靴もじわじわと浸みてくる感じだ。
 昔、ゴールデンウィークに北横岳から天狗岳まで歩いたことがあったが、あまり雪があったという記憶がない。まあ、日帰りだから、靴の中まで濡れても大したことはないが。

稲子岳との二重稜線の間の窪地

 主稜線の縦走路に突き当たり、右折して中山に向かう。
 中山への登りの途中で振り返ると、原生林の上にニュウのピークが突き出していた。ここから見ると確かに稲束を積み上げたような突起で、「にゅう」の命名が納得できる。

中山の登りからニュウを振り返る
 


 道が下りかけて、中山の最高点を過ぎてしまったのに気が付く。三角点ではなく標高点なので、残雪に埋もれて分からなかったのかもしれない。
 標高点の先のピークががらがらの岩場で、天狗岳の眺めがいいので、昼食にする。コンロを置いてきてしまったため湯が沸かせず、菓子パンとゼリーだけ。高見石まで行ったら、小屋で何か作ってもらおう。

中山からの天狗岳
 

  縦走路も相変わらず雪に埋もれている。登山者が歩くところだけが固くなって溶け残り、両側より高くなっている。残雪の稜線のようなもので、滑らないように気を付けて歩かなければならない。
 登ってくる人とすれ違う時に、不用意に脇に避けると、ズボッと膝まで踏みぬいてしまう。益々、靴が濡れてきた。

雪の残る登山道
 

 高見石小屋に着いた時には既に2時近かったが、それでも食べ物が出来るというので、ラーメンを注文する。その間に、小屋の横の高見石に登る。大岩が鎮座しているのではなく、ニュウと同じく岩が積み重なったものだ。眼下に白駒池が大きく見える。ここの展望もなかなか爽快だが、崖線に面したニュウの方が、風景に変化がある。
 岩から降りて、中華そば風の醤油ラーメンを食べる。それなりにうまい。

高見石から見下ろす白駒池
 

 高見石からは丸山を越えて麦草峠へ下山するつもりだったが、雪の多いのに閉口して、一番楽に降りられそうな、高見石の北側を回り込んで池を経由せずに駐車場へ出られるコースにした。相変わらず雪は多いが傾斜が緩く、短時間で駐車場まで降りることができた。

 家に帰ってから白駒池畔の青苔荘のHPを見たら、5月の初旬の時点ではあるが、「今年は、過去25年で最も雪が多い」と書いてあった。やっぱり普通の残雪量ではなかったんだと納得した。

アイコンをクリックするとマップがでます。


[山行日] 2008/6/7(土)
[天気] 晴れ
[アプローチ] 美し松別荘地 (R152号)→ 白樺湖 (ビーナスライン)→ 蓼科高原 (R299号) 白駒池駐車場    [約32km]
      
・白駒池駐車料金500円/日
[コースタイム] 9:15 白駒池駐車場 (0:15) 白駒池 (0:20) 白駒湿原 (0:25) 稲子湯分岐 (0:30) ニュウ山頂 (0:55) 中山分岐 (0:20) 中山山頂 (0:55) 高見石  (0:25) 白駒池分岐 (白駒の奥庭立ち寄り0:15) 白駒池駐車場  15:10   (計4:20)
[地図] 蓼科 (1/25000)
[ガイドブック] アルパインガイド34「八岳・北八岳」  山と渓谷社

 

[宿] ペンシオーネ美し松
・白樺湖の北、美し松ハイランド別荘地内にあるペンション。
・本館の他にコテージが3棟あり、うちの飼い犬のような屋外犬も泊まれるのでありがたい。
・犬の宿泊代がタダといのもうれしい。

   
inserted by FC2 system