三方崩山( さんぽうくずれやま)                     [白山周辺]   2059m

 

  三方崩山は白山から東に延びる稜線上の山で、その名のとおり山頂付近が大きく崩壊している。御母衣ダムの湖畔から北を見ると、鋸状の急尾根の上にカールのような崩壊谷を抱え込んだ三方崩山の特異な山容が目を引く。崩壊谷の左側の大きなこぶが山頂である。

 三方崩山に登るのは今回が3回目。
最初に登ったのは1989年のゴールデンウィーク。天気が良い絶好の日和だったが予想外に残雪が多く、雪の付いた稜線は怖くて登れなかった。
 次は1992年のこれもゴールデンウィーク。前回の反省を元に軽アイゼンとストックを持って行ったがやっぱりダメ。前回よりも上部まで行けたけれど、両側が切れ落ちた雪の尾根の通過はやっぱり怖くて途中敗退だった。
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回目の時は、かなり山頂近くまで登っていたので、
「まあ、登ったことにしよう」
と自分を納得させていたが、ずっと気になっていて、今回、10年ぶりに登ってみようと決心した。

左端が山頂(1992/5/3)

  前日の夜に登山口近くの林道まで入り、車中泊。暗い夜道に荒れた林道を走るのは嫌なので、適当な所に車を止める。頭上に送電線が走り、一面の星空だった。

  翌朝、車がジャリジャリと林道を登ってくる音で目を覚ます。まだ、あたりは薄暗い。「もう少し寝られるかな。」と時計を見たらもう520分。6時が日の出のはずだがと思って空を見上げると山腹にガスがかかっていた。暗いはずだ。
  台風が三陸沖で発達して冬型のような気圧配置になったらしい。すっきりした展望を期待していたのだが、どうもそううまくはいかないらしい。

  カップヌードルの簡単な朝食を済ませて、気ぜわしく出発する。すぐに登山口だろうと思い、車を置いて歩き始めたが林道はどこまでも続く。こんなんだったかな、と思いながらつづら折りの林道を登っていくとやっと堰堤下の林道終点に着いた。荒れた林道の最後はなぜか舗装されていた。

  堰堤に付けられたコンクリートの階段を上がり、草のかぶった谷道を登る。すぐに右手の山腹を登るようになり、一登りで支尾根の上に出る。先行者が1人休憩していた。

「ブルブルッという変な音がしませんでしたか。」とその人が口を開いた。

「何か下の方で音がしましたが、オートバイではないですか。」と答えると、

「いやー、熊じゃないですかね。」と言う。

  確かに熊くらいは出そうな森だけれど、動物の声には聞こえなかった。と言って、僕も熊の声を聞いたことがあるわけではない。長く山登りはしているがまだ熊には出会ったことはない。
 その人はザックに付けた熊よけと思われる鈴を鳴らしながら、先に登って行った。

 

  しばらく山腹の道を行き、続いてジグザグの道を一汗かくとブナの森に出る。小さな谷の源頭が少し広くなっていて、ブナ平とでもいった感じだ。その上の斜面に続いているブナの林は紅葉にはまだ少し早いが見事なものだ。

 ブナ林の中の道を一登りで1244m標高点の尾根に出る。あとはこの尾根をひたすら登っていくだけだ。尾根の上も少し幹が細くはなるがブナが続いている。

1244m標高点下のブナ林
 
  少しの間、道は緩やかだが、だんだん傾斜がきつくなる。道の脇にトラロープが張ってあるので、崖の方へ入らないようにしているのかと思ったが、傾斜がますますきつくなり、どうやらフィックスロープであることが分かる。周りはシロモジ、タカノツメ、カエデ類の背の低い木が多く、その中をトンネルのように一直線に登山道が登っている。


  最初のうちは普通に歩けたが、どんどん傾斜がきつくなり、せっかくあるのだからと、普段はあまりしないがロープをつかんで腕で登る。脚はぐっと楽になり、どんどん高度が稼げるが、程々にしておかないと疲れて腕がだるくなってしまう。

稜線のブナ(下山時に撮影)
 
  ふと、けもの臭いにおいがしたので立ち止まった。さっきの会話を思い出してちょっと怖くなり、ぱんぱんと手をたたいてみた。すると右手の斜面のヤブの中を黒いものががさがさと動いていく。熊にしては小さいような気がするが、そうは言っても熊を見たことがある訳ではない。
 音がしなくなってから、タヌキは夜行性だし、小熊だったかもしれないな。と再び歩き始めた。
赤黄のモミジ

 

白ザレから見おろす谷
 
ガスが湧く稜線
 
  急傾斜の尾根を登りきると左側が崩れた崖の上に出る。白いザレが周りの黄葉と対照的だ。ガスがひっきりなしに湧いてきて三方崩山の山頂は見えないが、切り立った崖と黄葉の尾根が織り成す山脚の雰囲気は大山のような感じがする。このあたりの高さが紅葉の盛りのようだ。

 

  なおも尾根を登るとだんだん木の高さが低くなってくる。ガスの切れ間から白川村の集落の方や御母衣ダムの光った水面が見える。岩場には真新しい鎖が架かっているところもある。


 尾根に針葉樹が混じるようになったあたりに見覚えがあった。ここが2回目に登った時の引き返し地点だ。残雪期には短いながら雪の付いた急な岩場の登りがあり、先に進む自信がなかった。その先に尖ったピークがあり、それを 越えれば山頂まではすぐのはずだ。

前回引き返したピーク(左側)
 
  雪のない今は鎖をつかむまでもなく、どうということもなく岩場をクリアする。ここからは未知の領域になる。登り着いたピークの先には想像していたなだらかな稜線はなく、まだ痩せ尾根が続いていた。しばし、唖然。
 でも流れるガスの向こうにもう山頂の黒い影が見える。気を取り直して急な岩場を少し下り、痩せた尾根をたどる。一箇所両側がすっぱり切れ落ちたところがあり、腰が引けそうになる。痩せた部分は5mほどの距離だが落ちたら一巻の終わり。緊張する。

 

 しかし、その先はもう笹と針葉樹のなだらかな尾根だった。

 突然ガスが晴れて白山の方角が見えた。奥三方岳に続く稜線が邪魔をしていて、白山は御前峰と剣ヶ峰の先が見えるだけだが、左手の別山が白山の代表のような顔をして大きく肩を張っている。

左遠くに別山、右の稜線の上に覗くのが白山
 
  尾根をたどって南に向きを変えるとやっと念願の山頂に到着。ちょっと、いや、やっぱりかなりうれしい。
 白山のほうは木が邪魔をしているし、北アルプスの方角はガスのために展望は利かないけれど、本当にうれしいピークだ。

 狭い山頂には先行者が二人。どちらも単独行の男性だ。もう少したくさん登っているかと思ったが意外に少ない。4時間弱のひたすらの登りが登山者をふるい落としているのかもしれない。
 静かな山頂で一層うれしい。

三方崩山山頂  (後方が白山方面)

 

  山頂でおにぎりを食べている間に少しずつガスが取れてきた。登ってきたぎざぎざの尾根も見えてきたし、黄葉の谷も見下ろせる。この調子なら白ザレのところからいい写真が撮れるかもしれないと下山にかかる。

  再び痩せ尾根を通過し、気の緩みを押さえながら慎重に岩場を下っていく。青空が広がってきて、尾根の黄葉が輝きを増してくる。心はどんどん軽くなってくる。

 

登ってきた尾根
 
ナナカマド 紅葉の尾根

 

  果たして白ザレの上からの三方崩山は岩と錦の衣をまとい実に素晴らしい姿を見せていた。やっとこれで、心のつかえは全て晴れた。
 あとはのんびりとブナの森を下るだけだった。
白ザレからの三方崩山

 結局この日の登山者は67名だった。

 今回山頂まで登ってみて、前回はあと30分のところまで迫っていたのが分かった。いい線まで行っていたことも確認できたが、それ以上に、山頂近くのあの痩せた稜線を思うと、やっぱり残雪期では自分の力量を越えた山だったと納得できた次第。

 

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[山行日] 2002/10/13(日)〜14(祝) 
[天気] 曇りのち晴れ
[アプローチ] 東海北陸自動車道 荘川I.C. →(国道156)→ 登山口近くの林道  [約23km]
[コースタイム] 林道P (0:20) 登山口 (0:30) 支尾根上 (0:30) 1244m標高点 (0:55) 1624m白ザレ (1:30) 三方崩山山頂 (1:05) 1624m白ザレ (0:25) 1244m標高点 (0:35) 登山口 (0:15) 支尾根上    (計6:05)
[地図] 平瀬、新岩間温泉(1/25000)
[ガイドブック] アルペンガイド「白山と北陸の山」 山と渓谷社

 

[温泉] 平瀬温泉共同浴場  tel 05769-5-2422
・白川村平瀬。登山口への林道の入り口にある。
・温泉街の裏手にある銭湯のような温泉。番台もある!
・入浴料330円。石けんなし(50円で売っている)。
・木曜定休。
・ステンレスの浴槽。大谷石のような洗い場。露天風呂なし。
・以前は行ったときは芋の子を洗うようだったが、今回はすいていてのんびり入浴できた。


   
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