三周ヶ岳( さんしゅうがたけ)                           [奥美濃]   1292m

 

  三周ヶ岳にトライするのは3回目。前2回はいずれも坂内川沿いの林道が通行止めで、登山口までたどり着けなかった。今回は坂内村役場にメールを送り、通行できることを確認してから出かけた。

 夜叉ヶ池までは16年前のGWに福井県側から登ったことがあるが、岐阜県側からは今回が始めて。そのとき、国境稜線から見下ろした岐阜県側は、池ノ又谷源頭の急斜面に雪が残り、登山道はなかなか厳しそうに見えた。

 

 8時過ぎに池ノ又谷の登山口に到着。一車線の狭い林道の終点にしては、意外なほど広い駐車場で、80台くらいのスペースがあるだろうか。トイレや東屋も整備されている。
 正面には青い空に夜叉ヶ池付近の稜線が延び、夜叉壁と言われる岩壁も見える。最高の天気で気分も軽い。

 

  駐車場から小さな沢をたどって池ノ又谷の本流に下り、そこから本流沿いの道をさかのぼる。小さな木の橋で流れを2、3度渡ったあと、支流の流れ込みを渡って山腹に取り付く。道はひとしきり登った後、山腹を巻くようになる。

  登山道はよく整備されていて歩きやすく、ペースが上がる。特に巻道部分は傾斜がゆるく、道幅もあって、遊歩道感覚だ。周りのブナ林はすっかり葉を落としていて、柔らかい秋の日差しを浴びながら歩くのは気持ちがいい。

 

夜叉壁 (この写真は帰りのもの)

 

  細く、二段に落ちる幽玄ノ滝のすぐそばを通り、池ノ又谷の本流を横切って、道は右岸側の斜面を登っていく。右手には夜叉壁が迫り、その下に昇竜ノ滝が懸かる。
 ロープが下がった岩場を登るところもあるが、ロープを頼るほどのところではない。

  源頭の草紅葉の草原を上ると、意外にあっさりと県境の稜線にたどり着いてしまった。コースタイムより随分早い。
 眼下には久しぶりの夜叉ヶ池がぽっかりと開けている。池の周りの木々は裸木になっていて、すっかり晩秋の装いだ。池の向こうには遠く今庄の町が見える。

昇竜ノ滝

 

  霜の降りた池の端で一休みした後、三周ヶ岳に向かう。稜線を北にたどると夜叉壁の頭で今まで見えなかった三周ヶ岳までの展望が開ける。

 右手には黒壁山が大きい。黒壁山は三周ヶ岳よりも高く1300mを越える。奥美濃で1300mの高さは魅力的だし、山容も堂々としていて魅力たっぷりの山だが、残念ながら道がない。ちょっとやそっとでは手が出せない。

  稜線は風が強くて歩き始めはウインドブレーカーを着たが、じきに暑くなって脱いでしまった。大気はまだ冬の冷たさではない。

一番左が三周ヶ岳


 

 道は岩稜を登ったり、腰ほどの笹やぶを分けたりと変化に富んでいて、小さなアップダウンが多いがあまり気にならない。所々背の低いブナやリョウブ、その下にシャクナゲやアカミノイヌツゲなどがあって、奥美濃の山らしい植生だ。

  1252mのコブの頭に登ると、一気に北の眺めが広がる。真っ先に白い山が目に飛び込んでくる。白山だ。ひときわ高く、唯一雪をかぶって青空に映えている。しばし見とれる。

  一度、滑りやすいブナ林の坂を下って、笹を掻き分けてひと登りすると三周ヶ岳の頂上だった。

黒壁山

 

 頂上は三角点を中心に、8畳ほどの広さしかなく、すでに人がいっぱいだった。山頂からは手前のヤブが少々じゃまになるものの、360度の展望が得られる。
 つい白山に目がいってしまうが、能郷白山はなだらかな鯨の背のような姿を見せているし、よく見れば冠山も見える。別山の前にうずくまっているのは荒島岳だろうか。双眼鏡を使えば能郷白山の左には穂高の吊尾根も見える。


  南の方は逆光でシルエットになっていて、伊吹山と金糞岳くらいしか分からない。西の上谷山の肩越しに見えるのは、以前登った敦賀半島の西方ヶ岳だろう。その右手に広がるのは日本海か。双眼鏡を覗くと、若狭富士とも言われる青葉山が遠くぼんやりと見える。はさみのような特徴のある山頂でそれと分かる。その左手に広がるのは湖北の山々だが、このあたりはさっぱり分からない。

 

三周ヶ岳山頂手前から北東を望む (左に遠く白山、右に能郷白山、手前は千回沢山など)

 

  能郷白山の右手のぼんやりとした山を指して、「あれは、乗鞍だ。御岳は雲の中で見えないな。」と言っている人がいる。しかし、左側に継子岳と思われるなだらかな裾野を引いている姿から判断すれば御岳だろう。
 その声の主は「残雪期なら道のない美濃又丸まで行けるし、その頃は人が少なくていい。」などといかにも山慣れた事を言っているが、あまり山では偉そうな事は言わないほうがいい。
 もっとも、僕の同定も怪しいものだが。

  山頂のすみっこで半分笹に埋もれておにぎりを食べていたが、まだまだ人が登ってくる。立ったままパンをかじっている人もいる。落ち着かないので「交替、交替。」と、下山することにする。少し戻った稜線から白山を振り返り、絶景のなごりを惜しむ。

 

  夜叉ヶ池まで戻ると、池の周りも人でいっぱいだった。水際の砂地のところはほとんど人で埋まっていて、100人以上はいそうな感じだ。

  稜線の岩に腰をかけ、池を見下ろして呆れていると、まだまだ下から登ってくる。キュロットスカートにトレッキングシューズを履いたおばさん。ビジネスバックを小脇にかかえたおじさん。何も持たずに手をつないで登ってくるカップル。
 さすがにハイヒールの女性はいないが、半分くらいの人はほとんど普通の観光地の乗りでやってくる。さすが夜叉ヶ池だ。登山道が良く整備されているのもうなずける。

稜線から夜叉ヶ池を見下ろす(バックは上谷山)

 

 日が傾いて陰影が付いたために立体感の出た夜叉壁を仰ぎ、わずかに残った逆光に輝くイタヤカエデに目を細め、何度何度も稜線を振り返り、ブナの落ち葉を踏んでのんびり下山した。でも、あっけなく駐車場に着いてしまった。今日はもっと歩いていたい気分だ。

 駐車場の手前の流れのそばで、みかんを食べながら紅葉を楽しむ。落ち葉が流されて、淀みでくるくる回っている。

ブナの森を抜ける巻き道

 ずっと心に残っていた三周ヶ岳に、しかもこんないい天気の日に登れて大満足だ。
 想像していたよりもずっと楽に登れるし、池、滝、岩稜、樹林と変化に富んだ魅力的な山で、奥美濃で一番人気のある山だろう。

 また、登ることもあるかもしれないが、今度は人の少ないウィークデイに登りたい。

坂内谷の神岳ダムの紅葉


アイコンをクリックするとマップがでます。 <美濃川上、広野(1/25000)>


[山行日] 2001/11/11(日) 
[天気] 快晴
[アプローチ] 名神高速道路大垣I.C. 6:30 (揖斐川右岸道路)→ 揖斐川町 →(R303)→ 坂内村川上 →(林道)→ 8:05 登山口  [約72km]
林道は神又谷出合から奥はカーブが多い一車線。すれ違い注意。
登山口には80台程駐車可能。トイレ、東屋あり。
[コースタイム] 登山口 (0:50) 幽玄の滝 (0:30) 夜叉ヶ池 (1:00) 三周ヶ岳 (1:00) 夜叉ヶ池 (0:25) 幽玄の滝 (0:45) 登山口  (計4:30)
[ガイドブック] アルペンガイド「鈴鹿・美濃」 山と渓谷社


   
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