蕎麦粒山(そむぎやま)                    [奥美濃] 1297m

 

 三周ヶ岳に登ろうと坂内村川上集落の国道から少し入った夜叉龍神社の前で車を止め、車中で一夜を明かした。
 翌朝、5時に起きて登山口まで入ろうと車を進めたら、直ぐに村はずれで通行止めになっていた。完全には塞いでないので少し怪しい。山菜取りの都会人を排除するためのものかもしれない。
 しかし、以前にも工事の通行止めに遭って断念しているので、今日は素直に方向転換する。こんなこともあろうかと予備に蕎麦粒山の地図も用意してきているのだ。

 ただ、このスペアは少々手ごわい。ガイドブックによれば登りは急でロープが張ってあるところがあり、稜線に上がってからはヤブ漕ぎをしなければならないらしい。おまけに今日は天気が今いちで、山の上のほうは雲の中だ。国道を戻って坂内村の中心から大谷林道に入り、西俣出合まで来ても、歩き出すのには心の準備が必要だった。

 林道脇の広場には5、6台の車が止まっていて、テントを張っている人もいる。インスタントラーメンを食べ、ガイドブックを読み返して出発しようとしたら、そのテントから出てきた女性に呼び止められた。
 話を聞けば隣に止めてある大阪ナンバーの車のグループが昨日から戻ってこないと言う。男1人、女2人の3人連れで軽装だったので幕営するような感じではなかったし、夕方谷の方で人の声がしたので呼びかけたが何を言っているのか分からなかったとのこと。何か変わったことがあったら警察に知らせて欲しいと言われたが、遭難者に出会っても僕1人で何ができるのか。急な話でよけいに心が乱されたまま出発することになった。

 

 おまけに歩き始めてすぐのところで、林道がごっそりえぐり取られていた。山に取り付く前にこんなに荒れていてはこの先どうなるのかと、ますます不安がつのる。
 林道がつづら折りになっているところをドルの記号「$」の真ん中の棒のように崩れた谷が貫いていて、崩壊は一番上の林道のところから始まっていた。林道がほとんど無くなっていて、ロープは張ってあるものの、そこのトラバースは足元が今にも崩れそうで嫌な感じだった。
崩壊の一番上。林道がほとんどなくなっている。


 林道はその後も大きな岩が落ちていたり、沢が横切っていたり、なだれ落ちた雪が残っていたりで、先行きの不安を募らせる。1時間ほどでたどりついた林道終点の小広場でもまだ、ガスっている山を見上げて、登ろうかやめようか迷っていた。しかし時間は早いので、とりあえず行けるところまで行こうと腰を上げた。


ホンシャクナゲ タムシバ(後しろは五蛇池山)


 林道終点から沢沿いになおも10分ほど行くと、対岸の木の幹に尾根の取り付きを示す看板が見つかる。岩飛びで渡渉するが増水するとやっかいかもしれない。

 林の中の踏み跡をたどるといきなりロープが現われ先が思いやられる。しかし、踏み跡はしっかりしていて歩きやすい。木の根をつかむような急登だが、ぐんぐん高度を稼げるのでゆっくり登ればたいしたことはない。周りはシャクナゲだらけで花をかき分けて登るような感じだ。高度が上がるとタムシバも現われピンクと白に励まされて登る。
 ヒノキやヒメコマツが目立つ尾根道からブナの林に変わってくると傾斜がゆるくなって稜線の小ピークに出た。


 正面にはやっとガスがとれた蕎麦粒山が肩のあたりに残雪をまとって凛々しい姿を見せている。幸い天気は少しずつ良くなっているようで、薄日が漏れてきた。
 こうなると現金なもので急に元気が出てくる。一息入れて山頂を目指して稜線のささ竹のヤブに突っ込む。

 一度鞍部まで下るが、ここまではさほどヤブも濃くない。登りになるとだんだん払いのけるヤブが重くなってくるが、踏み跡は割とはっきりしている。

1180mピークからの蕎麦粒山


 時々残雪の上に出てヤブから解放される。雪の上は歩きやすいので調子に乗って登っていくとヤブに戻る踏み跡が見あたらない。少し戻って踏み跡を探すことが2度あった。

 山頂北の肩まで登ると、大きな雪渓が稜線に沿って延びていて距離が稼げる。トラロープの下がった最後の急登を登りきると、南北に細長い山頂の一角に出た。少し進むと低い潅木に囲まれた狭い土の広場に三角点が見つかる。


 陽射しは漏れているものの、もやってしまって展望が利かないのが残念だ。
 登る途中から高さの目安にしていた隣の五蛇池山とその向こうの天狗岳。そして西の方に残雪の三周ヶ岳から千回沢山あたりがぼんやり見えるだけだ。三周ヶ岳の手前には黒壁山が大きく見える。

 五蛇池山を眺めながら早めの昼食をとってのんびりしていても誰も登ってこない。写真を撮ってもらおうと思っていたが諦めて下山することにする。

三周ヶ岳方面がぼんやり見える。


 鞍部まで戻ったらさっそく7人のパーティーが登ってきた。早いねと驚かれる。そりゃ6時から歩いているからね。
 林道に下りるまでに全部で5パーティとすれ違った。ゴールデンウィークの真っ最中で多いのか少ないのか。
 尾根の下りは急なだけに慎重になる。シャクナゲやタムシバの写真を撮りながらゆっくり下る。


 沢まで下ると一挙に緊張がゆるむ。行きには気が付かなかったが、渡渉した付近の谷沿いにはトチノキやサワグルミの大木がたくさんある。流れの中の岩にも苔が付いていていい感じだ。きっと、水量が安定しているからだろう。

 登りのときは暗い感じの林道だったが、今は気分も軽く、新緑の明るい道に感じる。吹き上げてくる風が気持ち良く、思わず両手を広げて伸びをしたくなる。谷にはオオルリやミソサザイの鳴き声が満ちている。
 フサザクラやウリハダカエデの花の写真を撮りながらのんびり下る。崩壊地のところだけは気をつけて下り、車まで戻った。

ミヤマカタバミ


 ずっと気になっていた大阪ナンバーの車はなくなっていてホッとした。なにがあったかは分からないが、無事に帰ったのだろう。

 蕎麦粒山は1990年のゴールデンウィークに貝月山から眺め、名前どおりの蕎麦粒のような三角錐の山容にあこがれていた。ずっと登りたいと思っていた山にまたひとつ登ることができた。

 

ルートマップアイコンアイコンをクリックするとマップがでます。 <美濃広瀬(1/25000)>


[山行日] 2001/5/4(金)〜5(土) 車中泊
[天気] 曇り時々薄日
[アプローチ] 名神高速道路小牧I.C. →(県道157、179、156号)→ 愛岐大橋 →(R21)→ 岐阜 →(揖斐川右岸道路)→ 揖斐川町 →(R303)→ 坂内村、大谷林道西俣出合 [約80km]
 
・GWで高速道路が混んでいたので小牧ICから行ったが、通常は大垣ICで下り、揖斐川右岸道路で揖斐川町へ出るのが便利。
 ・林道の舗装の切れるところに30台は楽に止められる駐車スペースあり。
[コースタイム] 西俣出合 (1:05) 林道終点の広場 (0:10) 渡渉地点 (1:20) 1180m稜線の小ピーク (0:50) 蕎麦粒山山頂 (0:45) 1180m稜線の小ピーク (1:00) 渡渉地点 (1:10) 西俣出合  (計6:20)
[ガイドブック] アルペンガイド「鈴鹿・美濃」山と渓谷社
[アドバイス] ・稜線のヤブ漕ぎのために、長袖のシャツと軍手を持っていくと良い。
・山頂からでも携帯電話は通じない。(au)

   
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