立花( たちばなやま)                        [福岡]   367m

 

 博多に出張したついでに一山登ろうと太宰府のそばにある宝満山に狙いをつけたが、前日が雪。足ごしらえがないので取りやめて、以前「週刊日本の樹木」でその存在を知って気になっていた、クスノキの森のある立花山に登ることにした。

 単線ながら高架駅の西鉄香椎で電車を下り、駅前のバス停で登山口の下原行きを探したのだが、ない。前もって調べてきたバスの出発時刻まで5分ほどしかないのに・・・。
 困って西鉄の駅員さんに聞いたら「ああ、しもばるね。」と、左手の通りのもうひとつ のバス停を教えてくれた。すぐにやってきたバスに飛び乗る。
 「しもはら」ではなく「しもばる」と読むのだ。熊本や宮崎の方では田原坂や西都原のように原を「はる」と読むのは知っていたが、このあたりでもそうなんだ。福岡県も九州ですなあ。

下原の集落からの立花山(右)
 

 わずか10分ほどの乗車で終点の下原に到着。バス停には立花山の案内図や標識があって、それに従って山に向かう。集落を抜けたところに小さな祠があって、既に小高くなったそのあたりからは、市街地越しに博多湾が見える。

 祠の先の右手にため池があり、その先から山道になる。杉の植林地を抜け、谷川を跨いで斜面を登ると、支尾根の上に出た。少し高くなったためか、昨日の雪が落ち葉や枯れ枝の上にうっすらと残っている。

 尾根道はすぐに山腹を横切るようになり、立花山と三日月山を結ぶ稜線に出る。三日月山への分岐には大きなクスノキが立っていて、見渡せば何本ものクスの大木が目に入る。 目指すクスノキの森に入ったようだ。立花山のクスの森は「クスノキ原始林」として天然記念物に指定されている。

登山口の祠
 

 

タブノキの大木
 

木の根道
 

 分岐からは稜線上の急な道を山頂に向かう。クスノキの大木も目立つが、タブノキの太いものもある。きょろきょろと上ばかり見ていると、木の根につまづいてしまう。「ゆるやか道」を左に見送って、急な方の道を登ると山頂はすぐだった。

 山頂は戦国時代に山城があったと言われるだけあって、思いのほか平らで広い。
 山頂の一角だけ木立が切れていて、親子が景色を眺めている。その横に黒いシルエットがあって、子どもが二人いるのかと思ったら、雪だるまだった。わずかな雪を集めて作ったらしく、雪だるまは逆光のためだけではなく 、本当に黒かった。

立花山山頂
 

 挨拶を交わして傍に立つと眼下に博多の市街地が広がっていた。右手から海の中道の砂洲が延び、博多湾を玄界灘から分けている。アイランドシティの埋立地がなければ、もっと広々とした海が眺められるのに残念だ。 

中央がアイランドシティ、右手が海の中道
 

 こちら側の山並みは内陸に向かって宝満山の方に続き、向こう側には背振山地が横たわって博多の市街地を取り囲んでいる。まるで大陸の文化を受け止めようとするかのように、街が海に向かって開けているのが分かる。ここは遣唐使が大陸に向かい、元が攻め込んだところなのだ。ここからは東京よりも、いや京の都よりも、朝鮮半島の方が近い。

 山頂近くに巻き道があってそこにクスノキの大木が多いとガイドブックに書かれていたので、山頂から東へ向かう道をたどってみたが、すぐに下り道になってしまう。これは違うと山頂に戻り、先ほどの「ゆるやか道」がそうかと思って下ってみたが、すぐに登ってきた登山道に戻ってしまった。(そのかわりカゴノキがたくさんあった。)

 あきらめて三日月山の分岐まで下ってきたら、先ほど山頂にいた人が左手の山腹の方からやってきた。どうも一度下りかけた道が正解だったらしい。分岐から少し山腹の道に入ってみたら、やはりクスノキの大木が林立していた。 クス独特の細かくひび割れた樹皮を持つ太い幹が、森の中に何本も立っているのはなかなか壮観だ。

カゴノキの幹
 

 ここのクスの森は「クスノキの自然林の北限」という理由で天然記念物に指定されているのだが、実は最近では自然林ではないという説が有力になってきているらしい。クスノキは関東以西ではごく普通に見られる木であるし、非常に大きくなる木で神社などで御神木とされているものも多い。 そのため日本の気候に合った在来種というイメージが強いが、そのほとんどは神社や公園に植えられたもので、自然林の中にはあまり見られない。クスノキは古事記にも出てきて、 昔から舟などに利用されている木ではあるが、どうやら古い時代に台湾や中国から持ち込まれたものと考えられている。

 立花山は人家に近い里山だし、山城があったということで、人が植えたという可能性は高い。また、生えている状態も列状のものが見られるとも言う。

太い根張りのクスの大木
 

 しかし、人が植えたとしても廃城から400年が経ち、森の中に溶け込んだ姿は自然林といってもいいほど違和感がない。神社の御神木になるほどのものは少ないが、それでも目立って太いものは「本当に植えたものだろうか」と疑いたくなるほどたくさん生えている。
 市街地の隣にある巨木の森というのもいいじゃないか。

 三日月山にも行きたかったが、時間がなくて同じ道を下山した。

クスノキの幹
 


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[山行日] 2007/2/3(土) 
[天気] 曇り
[アプローチ] 福岡天神 7:50 →(地下鉄)→ 貝塚 8:06 →(西鉄)→ 香椎宮前(香椎宮参拝)香椎宮前 9:03 →(西鉄)→ 西鉄香椎 9:12 →(西鉄バス)→ 下原
[コースタイム] 9:30 下原バス停 (0:10) 登山口の祠 (0:20) 三日月山分岐 (0:20) 立花山山頂 (0:15) 三日月山分岐 (0:25) 下原バス停  11:35     (計1:30)
[ガイドブック] 「週刊日本の樹木」第21巻 クスノキ(学習研究社刊)
[地図] 福岡(1/25000)


   
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