田立の滝・天然公園(ただちのたき・てんねんこうえん)          [木曾] 1520m

 

 田立の滝に行くのは2度目になる。前回も今ごろの梅雨の時期だった。滝を見るなら水量が多くて豪快な、今の時期がいい。
 前回は、滝見物に時間を取られて、その上にある天然公園まで行けなかった。天然公園は小さいながら木曾には珍しい高層湿原である。今回はとにかく上まで行ってみることを第一の目標にした。

 粒栗駐車場には5、6台の車が止まっていた。この時期としては多いのか少ないのか分からない。歩き出すと、登山道はすぐに沢から離れて、山腹をジグザグに登り始める。昔から有名なハイキングコースなのでよく整備されている。湿気が多く、すぐ汗が出てきて、Tシャツ一枚で歩く。ヒノキに落葉樹が混ざる林の中では、ウグイスの谷渡りの声が響いている。カラの鳴き声やオオルリのさえずりも聞こえる。

 小一時間ほど登ると登山道に桟道が現れ、真新しい吊り橋を渡ると霧ヶ滝が姿を見せる。かなり大きな滝だ。岩場を巻き、傾きかけた霧ヶ滝展望所を過ぎると、田立の滝群最大の「天河滝」の下に出る。


 滝の高さは90mと言われており、ふた筋に分かれる感じで落ちている。滝に洗われた花崗岩の岩盤がひときわ白い。場所によってはしぶき混じりの風が吹きつけ、滝の迫力を一段と増している。駐車場に車を止めた人々はどこに行ったのか、滝つぼの周りには誰もいない。

 天河滝を左から巻いて登ると、吊り橋のたもとに青いトタン屋根の避難小屋が建っている。中は意外に広く明るい。
 ここからしばらくは、谷沿いに道が続く。吊り橋の先の不動滝は、滝の下に滑滝が続いていて、変化のある姿をしている。

天河滝

 不動岩への分岐にかかる雲上橋を過ぎると、渓谷は緩やかになってくる。


 谷沿いの桟道は濡れていると非常に滑りやすく、神経を使う。桟道や吊り橋はよく手入れがされていて、新しい割り材で補修された部分は滑りにくくてありがたい。何か臭うので割り材のヒノキの匂いかと思ったら、防腐剤のクレオソートの臭いだった。

不動滝

 節理のために角ばった樋のような形の箱渕を過ぎ、緑色の水を湛えた深い丸渕のところまで来ると谷道はおしまい。

 小休止のあと、右手の林を登ると林道に出る。林道の周辺は伐採が進んでいて、笹原が広がり、ヒノキが疎らに残されている。

丸渕を見下ろす

 暑い林道を歩くこと約1時間。見落としてしまったかと心配になった頃に、天然公園への上り口があった。林道の終点だった。


 ふただび山道に入り、ヒノキの林が切れると笹薮をかき分けるようになる。避難小屋への道を右に分けると、天然公園の一角にたどり着く。右、展望台、左、遊歩道と標識にあり、遊歩道を経由して展望台に行こうと、左の木道を歩き始める。しかし、小さな湿地を過ぎるとすぐに道は笹薮に没してしまい、足元の木道を足探りで進む羽目になった。遊歩道でヤブ漕ぎをするとは思わなかった。こちらの道はあまりお勧めではない。

 夕森渓谷からの道に出ると山頂の展望台はすぐだった。木製の展望台からは御岳が間近に見えるということだが、今日は残念ながら雲の中。東の方に中央アルプスが雲の底に頭をぶつけて並んでいるのがぼんやりと見えるだけだ。
 それでも双眼鏡で覗いてみると、越百山と思われる白いザレの山頂が見え、高山の雰囲気が感じられる。

 展望台の周りはサラサドウダンの花盛り。ぱっと見た感じ、大きな株だけでも10本以上ある。こんなにまとまってサラサドウダンを見たのは初めてだ。山頂広場の中央にはレンゲツツジがひときわ鮮やかに咲いている。

サラサドウダン

 夏のハイキングの下見だろうか、先生と思われるグループがコースの批評をしながら弁当を食べている。夕森渓谷でキャンプをしながら、野外活動のひとつにハイキングがあるのだろう。自然に親しむのは大切なことだと思うが、大勢の生徒に踏みつけられる山頂一帯がやや心配になる。


 後から来たもう一つのグループは高校の山岳部のようだ。夏合宿が近いのでトレーニングを兼ねているのだろう。さほど疲れているようには見えないが、生徒たちにあまり笑顔がない。山は楽しいかい?と聞いてみたくなる。

山頂のレンゲツツジ

 展望台から戻り始めると、長さが50mくらいありそうな細長い湿地があった。ここが一番天然公園の名前らしい景色だ。

 湿地は立派なミズゴケの高層湿原で、池塘までちゃんとある。周りを囲む針葉樹にヒノキが混ざっているのがやや木曾っぽいところか。
 湿地の中に一株だけ気の早いコバイケイソウが花をつけている。

湿原

 下山も同じように林道を下るが、谷道に下りるポイントを行き過ぎて、不動岩を経由するコースをとる。林道の岩をくり抜いたトンネルをくぐると不動岩への標識があり、少し降りると岩の上に出る。
 スッパリ切れ落ちた断崖で、四つんばいで覗き込んでも体がこわばるほど怖い。天気がよければ恵那山がきれいに見えるのだろうが、今日はガスってしまっている。木曽川の流れの右手に高峰山が緩やかな裾野を広げているのがぼんやりと見えるだけだ。

 不動岩から10分も下れば雲上橋で、谷道に合流する。下山のほうが岩や桟道が滑りやすくてよけいに緊張する。

 滝めぐりのハイカーがまだ登ってくるが、梅雨時のせいかやはり人出は少ないようだ。駐車場の近くの沢ではアベックが水遊びをしていた。

雲上橋(不動岩から降りてくると橋の対岸に出る。)

 車で国道に戻っていく途中で、道路を歩いているグループを追い抜いた。山頂にいた高校生のパーティーだった。天河滝の上で先に下って行ったから、ずいぶん早い足取りだ。訓練だから田立駅まで歩くのだろう。今どき駅まで歩く人はほとんどいないのではなかろうか。傾きかけた陽射しの中を駆けるように下っていく姿が、車の中の自分にはうらやましく、まぶしい。


アイコンをクリックするとマップがでます。 <三留野(1/25000)>


[山行日] 2001/6/17(日) 
[天気] 曇り時々薄日
[アプローチ] 中央自動車道中津川I.C. →(R19号)→ 南木曽町元祖 →(県道72号)→ 田立 →(林道)→ 粒栗駐車場 [約25km]
・粒栗駐車場は30台ほど駐車可。トイレ、休憩所あり。
[コースタイム] 粒栗駐車場 (1:05) 天河滝 (0:50) 林道に出る (0:30) 林道終点 (0:30) 天然公園展望台 (1:00) 不動岩 (0:25) 天河滝 (0:50) 粒栗駐車場   (計5:10)
[ガイドブック] マイカー登山ベストコース [名古屋周辺] 山と渓谷社
[温泉] アクアリゾート湯舟沢(岐阜県中津川市)
中津川のR19号から4.5kmほど馬籠方面に入ったところ。
・入浴料:1000円。タオル、バスタオル、部屋着付だが、風呂に入るだけでこの値段は高い。
・ただし、お湯はナトリウム泉特有のぬるっとした感じで、いかにも体に良さそう。
・温水プールも併設されていて、ゆっくり一日楽しむのにはいいかもしれない。


   
inserted by FC2 system