妻山( たかつまやま)                    [上信越・頚城] 2353m

 上の写真は1981年10月11日、戸隠の表山を縦走した時に八方睨みから撮ったもの。谷を隔ててすっくと立ち上がった高妻山の姿は素晴らしく、 いつまでも眺めていた。
 高妻山は登山口の戸隠牧場からピストンすると、9〜10時間のコースタイムになる。途中、一不動に避難小屋があるが、小屋泊まりとなると荷物も増えるし、利用者が多く意外に混むらしい。
 そんなことで、なかなか決心がつかなかったのだが、やっと1994年9月に登山口近くのキャンプ場泊まりの計画で出かけた。しかし、この時は雨で断念。高原散策に終わってしまった。

 それからまた10年以上が過ぎ、最初に魅せられてから25年の歳月が流れてしまった。もうそろそろ何とかしないと、体力の低下で登れなくなってしまうと思い、日の長い今の時期を狙って、 一念発起、再度挑戦することにした。

 午前4時に起きて戸隠小舎を出る。下で待つことにした女房に車で戸隠高原キャンプ場まで送ってもらう。キャンプ場入口には大型バスが止まっていて、たくさんの登山者を降ろしている。昨夜聞いた、戸隠小舎の息子さんがガイドする団体さんというのはこれらしい。団体さんと一緒にはなりたくないので、そそくさとキャンプ場を出発する。

 キャンプ場は学校の野外活動なのか、芝生広場にずらりとテントが並んでいる。オートキャンプ場のほうもたくさん車が入っている。前方の戸隠山は上のほうがガスで、わずかに一不動の鞍部辺りが見える。
 写真を一枚と思い、カメラを出したがレンズが出ない。昨夜、電池の入れ替えをした時は動いたのにどういうことだ。予備の電池を入れてみたがこちらもダメ。未練がましく電池を一本つづ入れ替えてみたがそれでもだめ。写真が撮れないとはショック。

 ショックを引き摺りながら、キャンプ場の端まで来たら登山口が分からない。コテージの間をうろうろするがそれらしい標識はない。作業道らしいものが山に向かって延びていたので、少し進んでみたが柵で行き止まりになっていた。うーんこれはどういうことだ。ショックのダブルパンチ。
 しかたなくキャンプ場の入口に戻りかけたら、例の団体さんがやってきた。一緒にはなりたくないが背に腹はかえられず、しかたなく後をついて行くと、北寄りに 歩いていく。すぐに駐車場が現れ、その先に戸隠牧場の入口があった。そうなのだ、登山口はキャンプ場ではなく牧場にあったのだ。既にすっかり疲れて、とぼとぼと牧場を横切って山に向かう。

 牧場が切れるあたりにテントが立っていて登山届けを書く。団体さんのほかにいくつかのグループが前後して歩いている。
 落葉樹の森に入るとやがて沢を渡るようになる。まだ梅雨が明けきっていないため沢水は多いが、沢飛びの石はなんとか流れの上に頭を出している。そこからは何度も支流をまたぎ、本流を横切っていく。

 前のグループに離されないようにと、頑張って歩いていたら団体さんに追いついてしまった。ペースが遅くなり、呼吸が楽になった。まあ、このくらいが僕の本来のペースだろう。長丁場なので、マイペースで行かないと、バテてしまう。
 

 団体さんが休憩を取ったので列の前に出たが、ペースは上げずにゆっくり歩く。

 やがて滑滝の横を鎖で登り、ズリに埋もれた沢を登ると、帯岩のトラバースにかかる。このコース一番の難所と言われているが、ステップは切ってあるし、ところどころ草も生えていてあまり高度感はなく、難なく越えられる。
 むしろその先の 不動滝の滝口の岩場登りの方が、足場が取り難くてやっかいだった。鎖を使い、力技で越える。 

滑滝(携帯写真、以下同じ)
 

 ここからは岩がごろごろした歩きにくい道。両側を潅木に覆われてトンネルのような道を行くと、道の左側の竹筒から水が出ている。一杯清水だ。
 そばに立て札があって「氷清水」と呼んでくれとある。どうして名前を変えようとしているのは分からないが、 氷清水の方が古くからの呼び名かもしれない。なにせ戸隠は修験道の山だから、歴史は古い。高妻山へのコースも裏巡りの修験の場であったらしく、一不動から山頂までのピークに二釈迦、三文殊、四普賢、五地蔵などの名前が付けられている。

 喉を潤して、もう一登りするとその一不動に着く。避難小屋の前で休憩をとり、朝飯がわりの菓子パンをかじり、稜線歩きに取り掛かる。ここからがまだ遠い。
 

 一不動から一登りで二釈迦。小さな石の祠が置いてある。無くなっているところもあったが、名前の付いた各ピークにはどこも祠が安置してあった。
 稜線上はガス。右手は草地の崖になっていて、ガスの中にクガイソウ、キスゲ、ギボウシ、アザミなどが浮かんでいる。足元にはイブキジャコウソウ、ママコナなどが咲いている。写真に撮れないのが残念。まあ、展望が利かず、景色も撮れないので逆に慰めになる。

 ここから五地蔵までは、基本的に右手が草地、左手はダケカンバやコメツガの森。小さなアップダウンがあり、体力を使いすぎないように気を付けながら歩く。ガスの中から、ウグイスやコルリの鳴き声が間近に聞こえる。
 

クガイソウ

 右手にお花畑が広がり、息がしんどくなってきてやっと五地蔵に到着。もう少し先が本当のピークで展望が開けるそうだが、ガスなので五地蔵の標識のある祠の前で休憩。丸く笹が刈り払われている。エネルギー補給にゼリー飲料を飲む。単独行の人が何人か通り過ぎていく。まだ足取りの軽い人、ちょっと疲れている感じの人、様々だ。
 

 五地蔵からわずかな歩きで六弥勒、七観音。ここから大きく下って登り返すと八薬師。この辺りの鞍部はぬかるみになっていて歩きにくい。
 八薬師から少しのアップダウンで九勢至。ガスが流れてわずかな切れ間から最後の急登が垣間見える。急斜面がまるで緑の壁のようだ。ガスの遙か上に丸いピークがのぞく。思わぬ高さでショックを受ける。あんなところが頂上か。遙か500mくらい上に感じられる。
 しかし、登山道を行く人が見えてくるとスケール感が戻ってきて、実際はそんなに高くはない。ワンピッチ300mといったところか。それでも、ここまで歩いて来ての300mはつらい。九勢至で休憩を取って最後の登りに取り付く。

高妻山最後の登り
 

 笹のなかの溝のような登山道は、だんだん傾斜が増していく。風が通らない上に、頭上からガスを通して陽が射してきて暑い。おまけに足元はごろごろした岩で歩きにくい。
 脚が少し攣りそうになってきて、目の前に急に現れた岩場の影で休憩。脚を休ませる。まだ攣るところまでいっていないので、なんとか山頂までは持ちそう。再び急斜面をよじ登る。

 次第に周りが潅木になってきて、傾斜が緩くなりぽっかり草原に出る。ガスで見えないが、山頂の一角のようだ。十阿弥陀の祠を過ぎ、大岩が重なった歩きにくい岩場を越えると三角点の山頂だった。

十阿弥陀の祠
 

 やっと念願の山頂に到着。ガスのベールで回りは何も見えないけれど、満足感は一杯。携帯のカメラで記念写真を撮ってもらう。

 十数人ほどの人が山頂の岩場の上に三々五々休んでいて、コンロで食事の支度をしている人もいれば、蹲って動かない人もいる。僕も乾いた喉にパンを押し込むが、あまり食欲はない。
 日陰がなくて暑いし、展望も利かないので、団体さんが到着する前に下山することにする。この山は下りも長いのだ。まだ気を抜くことは出来ない。

山頂記念写真
 

 九勢至までの下りの途中で団体さんが登って来た。道を開けてもらい通してもらう。4人もガイドがついているというだけあって、大きな団体なのに統制が取れている。九勢至まで下って振り返るが山頂はまだ雲の中。午後になってもガスは取れそうもない。
 

 七観音までの登り返しが帰りの中では一番きつい。七観音の祠のそばの木陰で息を整えていると、風が通って気持ちがいい。

 五地蔵まで来るとちょっと安心して、大休止。今度は行きとは別の展望の効く方のピークだが、相変わらず回りはガス。ガスの切れ間からちらりと黒姫山の方が見える。
 静かで暖かいミルクのようなガスに包まれていると、遠い昔、どこかの縦走路で同じようにガスに囲まれていたことが思い出される。暑さの一歩手前。ぬくぬくとした陽射しが夏山の感覚を呼び起こす。 耳をすましても、わずかに遠く鳥の声。目の前に白いホタルブクロが一輪だけ咲いている。

 

七観音の登り返し
(背後は五地蔵山)
 

 五地蔵からは快適に下る。行きに分からなかった四普賢の祠を確認し、三文殊の登りに最後の力を振り絞って、一不動の鞍部に到着。
 アップダウンはあるものの、やはり下りは気分的に楽で、予想外に体力を消耗せずに下りてこられた。少々心配だった左膝も痛みが出ずに済んでいる。

 鞍部ではガスが切れ、下の牧場が見下ろせる。下は陽が射して暑そうだ。大休止をとり、氷清水でまた喉を潤してなおも下る。帯岩、滑滝ともに下りの方が気を使うが、危険というほどではない。予想していたより1時間半も早く、2時半に牧場入口に帰ることが出来た。
 

一不動付近から牧場を見下ろす


 
売店で冷たい牛乳を飲みながら振り返ると、やはり一不動の上は雲がかかったままだった。
 長年の念願が叶い、展望はなかったが満足満足。ロングコースを歩き切ることができ、ちょっとだけ体力にも自信が持てた。

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[山行日] 2006/7/29(土)〜31(月)
[天気] 曇り
[アプローチ] 29日 上信越自動車道 信濃町I.C. (県道)→ 戸隠キャンプ場 → 戸隠小舎      [約17km]

30日 戸隠小舎 → 戸隠キャンプ場  [約2km]

[コースタイム] 4:45 戸隠キャンプ場 (1:30) 滑滝 (0:15) 氷清水 (0:15) 一不動 (0:20) 三文殊 (0:40) 五地蔵山 (0:10) 七観音 (0:35) 九勢至 (0:20) 岩場 (0:25) 9:55高妻山山頂 (0:40) 九勢至 (0:30) 七観音 (0:10) 五地蔵山 (0:25) 三文殊 (0:10) 一不動 (1:25) 牧場入口 14:25   (計7:50)
[地図] 高妻山 (1/25000)
[ガイドブック] ブルーガイドハイカー「妙高・戸隠と越後の山々」実業之日本社

 

[宿] 戸隠小舎
・長野市戸隠越水ヶ原 TEL026-254-3333
・戸隠高原の越水ヶ原に古くからある山宿。2007年で創立50周年になる。山小屋ではなく、和風ペンションの雰囲気。
・オーナーの佐々木徳雄さんは登山家、息子さんの常念さんはスキーと山のアドバイザー

   
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