天狗(てんぐだな)1240m1200高地(1200こうち)1229m              [奥三河]   

 

 県道の路肩に車を止め、身支度をして仏坂峠に向かって歩き始めたら、10mも行かないうちに雨 粒が落ち始めた。
 「ありゃー、夕方までは持つんじゃなかったのかよォ。」
昨日の秋晴れを仕事で見送らざるを得なかっただけに、つい、恨み言のひとつも言いたくなる。

 今日は仏坂峠から踏み分け道を鞍掛山までたどるコースなので、雨降りではつらい。すぐに雨脚が強まる感じでは無さそうだが、引き返して車の中で対応策を考える。
 しばし、ガイドブックを眺め、雨が降っても歩ける所ということで、面ノ木峠へ向かうことにする。単独行の気楽さだ。

 津具村を抜けて面ノ木峠のいつもの駐車場に車を入れるが、他に1台しか止まっていない。3連休とは言え、紅葉のシーズンが終わってしまえばこんなものだろうか。
 天狗棚の稜線を見上げると、裸木の森がどんよりとした空の下に寒々しい。

 面ノ木園地を抜けて森に入るといきなり、熊出没注意の看板。ほんとかなあ。こんなところに熊が出るんだろうか。

面ノ木園地から見上げる天狗棚
 

 林床にスズタケの茂る落葉樹の斜面を右手に登っていくと、じきに稜線に出る。右に少し行けば、もう、天狗棚展望台だ。

 津具の集落の向こうに、三ツ瀬明神岳や岩古谷山が灰色のシルエットで浮かんでいる。向こうも、まだ、雨は降っていないようだ。右隣には碁盤石山、津具の谷の左手には 、さっき行き先としてちらりと頭をかすめた白鳥山も見える。

展望台から津具の集落を見下ろす

  道を戻って、分岐をそのまま稜線伝いに北に向かう。いくつもコブを越えるが、地図もないし、どれが天狗棚のピークか分からない。
  東側の斜面はおおむねヒノキの植林地だが、西側はブナやカエデの原生林が残っている。愛知県では、ここ面ノ木と段戸裏谷にわずかに原生林としてブナの森が残るだけで、貴重なものだ。僕の植物の先生である、Ki さんはずっと面ノ木の森で自然観察会を開いている。

  森はすっかり葉を落としていて、さくさくと落ち葉を踏みしめながら歩く。先ほどの看板が気になり、ときどきパンパンと手を叩いたりして音を立てて歩く。ツピー、ツピーとヤマガラが梢を渡っていくのが、よけいに静けさを感じさせる。

ブナ落ち葉の道
 

  看板に「1200m休憩所」書かれたベンチを通り過ぎると一旦下り、沢コース分岐の標識を通り過ぎると、1200m高地の看板が右手の急斜面を指している。少々喘ぎながら登りついた1200m高地の山頂には、三等三角点があるだけで展望はない。ここは天狗の奥山とも言われるらしい。

  少し東側に下った気持ちのいいブナ林で昼飯にする。このあたりだけ林床のスズタケが無くて見通しがきく。陽射しがあれば落ち葉の上で昼寝がしたいくらいだ。 目の前には大きなブナがそびえている。

 

ブナの木
 

 30分ほど休んで、来た道を戻る。
  頭上がにわかに騒がしくなり、ピチピチと鳥の鳴き声がする。たくさんの鳥が梢を渡っていく。双眼鏡で覗いても逆光でよく見えないが、どうやらアトリの群らしい。 100羽近くいそうな感じだ。森の上を飛んだり、梢に止まったりしてじっとしていない。
 ツグミの仲間の特徴のあるキョキョッという声がして、双眼鏡で確認したらまさしくツグミだった。北から渡ってきた当初は山にいる事が多いツグミだが、まだ山を下りないのだろうか。近くの枝にはヒガラやゴゲラもやってきた。

  鳥に気を取られていたら直ぐそばに人が来ていた。挨拶をしたら、次々に人が来る。50人ほどの団体さんだった。胸にバッチを付けているからどこかのツアーだろうか。今日出合ったのは展望台の単独の男性とこの団体さんだけだった。

  沢コースも魅力的だったが、ちょっと下の方へ下りすぎる感じがしたので、1200m休憩所のベンチの裏の踏み跡を県道に向かって下る。植林地とブナの森の境目にある踏み跡で、10分ほどで県道に下りてしまった。面ノ木園地に戻るには県道に沿って沢沿いの 遊歩道があるのだが、県道から降りる道が無い。すぐ下に橋などが見えているのだが、稲武方面に戻っても、面ノ木方面に行っても踏み跡がない。仕方なしに、わずかに笹が薄いところを狙って強引に下りた。

 遊歩道に出たところに腰掛けるのにちょうどいい倒木があったので、また、一休み。ポットに残った湯でインスタントコーヒーを入れる。そばを流れる沢音が落ち着いた気分にさせてくれる。
 

  ふと足元を見るとブナの実のからがいっぱい落ちている。落ち葉をよけてみると、三角錐をした実もたくさん見つかる。これはこれは、と拾ってみるが妙に軽い。爪を立てて割ってみると 、どれもしいなばかりだった。今年は冷夏だったのでブナの実が不作なんだろうか。それとも実の詰まったものはみんな山の動物たちが食べてしまったのだろうか。

  倒木の割れ目にはまり込んでちょっと取りにくかった一つの実だけが、ちょっと重かった。茶色の皮を割り、薄皮を丁寧に取って、かじってみると粉っぽいがほんのり甘い。コーヒーに合いそうだ。たった一つ、 動物達から山の恵みを分けてもらった感じがした。
 

倒木の苔の上のブナの実
(これはやらせではなく偶然の産物)
 
 沢に沿って遊歩道を登ると、わずかな時間で駐車場に戻ってしまった。

苔の表情いろいろ

苔の胞子 苔に覆われた倒木、緑色の大蛇のよう
苔に覆われたベンチ カップに映る苔、これはやらせです(^^)


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[山行日] 2003/11/24(月・祝) 
[天気] 曇り
[アプローチ] 岡崎 →(R1)→ 国府 →(県道)→ 新城 →(R151、県道32号)→ 鳳来町大代(鞍掛山登山口) →(県道32号、7号、10号)→ 津具村 →(県道)→ 面ノ木峠     [約105km]
・直接面ノ木に行くのなら稲武町回りの方が近い。ただし紅葉の頃は足助の香嵐渓が渋滞するので注意。
[コースタイム] 面ノ木峠 (0:20) 天狗棚展望台 (0:55) 1200高地 (0:20 +アトリの群れに見とれて15分) 1200m休憩地 (0:10 +県道からの降り口を探すのに10分) 県道下の沢 (0:15) 面ノ木峠    (計2:10)
[地図] 根羽(1/25000)
[ガイドブック] 分県登山ガイド「愛知県の山」 山と渓谷社


   
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