矢田丘陵 松尾(まつおやま)315m矢田山(やたやま)332m             [奈良]   

 

 ていはいメンバーで大和郡山在住の芳村さんにより矢田丘陵オフが企画され、アーリィバードさんと共に夫婦連れで遠路参加する。

 矢田丘陵は大和盆地と生駒山地の間に山地に沿って南北に延びる丘陵で、標高は300m程度。古くから開けた歴史を反映して、由緒のある社寺や石仏などが点在し、市街地のそばにしては珍しく里山の雰囲気が残るところで、市民の憩いの場としてたくさんのハイキングコースが整備されているようだ。

 

大和民俗公園駐車場横からの矢田丘陵
 

 名阪国道の関IC近くのドライブインでアーリィバードさんの車に乗り換え、西に向かう。意外に近くて、集合場所の大和民俗公園には集合時間の1時間前の9時に着いてしまった。どうしたもんかと駐車場をうろうろしていたら、黄色いジャケットのご夫妻から声がかかる。丹波のたぬきさんだった。お互いに早いですねと言っていたらぞくぞくと皆さん到着。集合時間の15分前には全員集まってしまった。関西の方は時間に正確なんだなと感心する。

 芳村さんのお声掛りで輪になると、なんと21人もいる。まずは自己紹介。知らない人が多くてちょっと緊張する。関西の方々は皆、顔見知りの様子で、和気あいあいとした雰囲気。
 芳村さん夫妻と地元の梅原さんからハイキングコースのパンフレットが配られる。吉村さんからは事前にウエブにコースの説明を載せていただいていたが、なにせ初めての場所なのでよく分からなかった。パンフレットをいただいて、ようやくコースの概要を理解する。

 

 10時前にぞろぞろと駐車場を出発。公園の横を抜けると、瓦屋根の集落の後ろに矢田丘陵のなだらかな稜線が延びる。
 すぐに最初の見所である矢田坐久志玉比古神社(やたにいますくしたまひこじんじゃ)に到着。鳥居の前の柱に太くて長い注連縄が渡してある。

 ここの見所は楼門に飾ってある飛行機のプロペラ。神主さんの奥さんにお話を聞くと、ここの祭神の饒速日命(にぎはやひのみこと)には天磐船(あめのいわふね)に載って飛び回ったという言い伝えがあるので、航空関係の方のお参りが多 いとのこと。このプロペラは満州事変?のときに本当に飛んでいた飛行機の物だそうだ。
 この神社は饒速日命が空から落とした三本の矢のうちのひとつが落ちたところで、境内には「二の矢塚」という小さな石が鎮座している。「矢田」という地名もこの言い伝えに由来するらしい。
 

矢田坐久志玉比古神社楼門のプロペラ
 神社から田んぼの中を歩いて山裾に近づくと、矢田寺がある。正式な名前は金剛山寺(こんごうせんじ)というそうだが、「矢田の地蔵さん」として知られていて、本尊の地蔵尊の他に参道や境内にたくさんの地蔵さんがある。

 中でも有名なのが「味噌嘗め地蔵」で地蔵さんの口に味噌が塗られている。たぬきさんが持参した味噌をその上に塗り重ねて、分厚い唇のような感じになる。
 家で作る味噌が上手にできるようにとお願いして味噌を塗るのだそうな。芳村さんにはあちこちでいわれや歴史を教えていただいたが、やはり解説者付きだと良く分かる。

矢田寺、味噌嘗め地蔵
 

 矢田寺からは松尾山に向かう。山裾の暗い竹林を抜け、水路に沿った山裾の道を行くと、さりげなく道端に石の道標が立っていたりする。以前歩いた「山の辺の道」のような感じ。
 なかなか山に登っていかないな、と思っていたが、立派な木の橋を渡ったところでやっと登りにかかる。ずっと楽な道を歩いていたので、山道がしんどい。いままでマウンテンバイクで快適に進んで来た水谷さんは、ふうふう言いながら自転車を押して登っている。僕もセーターを脱ぐ。

 丸太の階段を登りきると丘陵の稜線の上に出る。分岐を少し南にいくと斜面に張り出した展望台がある。「国見台展望台」といい、展望図が貼ってあるが今日はもやってしまって、盆地の反対側の山さえ見えない。天気がよければ大峰の山々まで見えるそうだが残念。
 

 ここから三角点のある松尾山をピストンする。尾根の上には軽自動車くらいは通れそうな道が通っていて、ハイカーだけでなくマウンテンバイクのグループもたくさん通る。
 マウンテンバイクは登山道を荒らすことが多くて好きになれないのだが、ここは道が広くてハイカーと共存しているようだ。マウンテンバイクのグループも歩いている人がいると止まってくれるし、挨拶もしてくれて感じがいい。

 このあたりは落葉樹ではコナラ、常緑樹ではソヨゴ、林床にはヒサカキやモチツツジが目立ち、三河の低山とよく似ている。笹が生えているのも同じ。ちょっとこちらの方が土地が肥えている感じがするが、ここも三河と同じように花崗岩質のようだ。

 コナラの林を抜け、標識に従って細い山道を少し登ると松尾山山頂に着く。しかし山頂のほとんどはNHKFM中継所に占拠されていて、居場所がない。建物の外周フェンスに沿って一回りするだけ。展望もほとんどなく、フェンスの わきで冷遇されている三角点を確認しただけで、そのまま展望台に戻る。

コナラの林を松尾山へ
 

 展望台ではハイカーがたくさん弁当を食べている。すでに正午に近いが、21人の大所帯が座る場所がないので、芳村さんに促されて、先に進む。
 石碑があればすぐ止まってしまうし、わいわいとおしゃべりしながらのパーティーなので予定時間をオーバーしてしまうのは仕方ないこと。またそんなハイクの方が楽しいのだが、引率者はたいへんだ。芳村さん、梅原さんには申し訳なく思う。

 北へ向かう稜線の道は広く、よそ見をしていても大丈夫。それでおしゃべりに花が咲く。島田さんが駄洒落を連発するので、ただでさえ空腹なのに、そのたびに力が抜ける。少々エネルギー切れなのでアンパンを食べながら歩く。

氷が張った南僧坊池
 
 南僧坊池の横を通り、矢田峠を越えると前方から雄叫びが響く。ヒノキ林の向こうに木製の展望台があり、歓声はその上から聞こえる。毎度のことできっと○○さんだろう。こちらは「矢田山山頂展望台」。昼食場所が近いので先を促されるが、やはり高いところには登りたいもので、ちょっと寄り道。

 上からは西の方向に山頂にアンテナが林立する生駒山が真正面に見える。南を見れば矢田丘陵がなだらかなこぶを重ねていて、さきほどのFMアンテナが見えるので松尾山だけはそれと分かる。東側の大和盆地はあいかわらず、もやっている。

山頂展望台から松尾山(右奥)を望む
 

 

 展望台から降りるとすぐに「まほろば展望休憩所」に着く。すでにめいめい弁当を広げている。休憩所の周りにいくつかテーブルとベンチがあって、のりかさんとフェアさんのテーブルに混ぜてもらう。

 カップラーメンを食べながら、お二人のホームグランドの金剛山の話などを聞くがなかなか寒い。きょうは陽だまりハイクのふれこみで、しかも天気は上々のはずがなぜか曇り空。杉林を吹き抜けてくる風も意外に冷たい。このあたり特有の天気だろうか。
 たぬきさんから丹波の栗焼酎をいただき、調子に乗ってアーリィバードさんから自家製梅酒を無心する。コーヒーを沸かして腹に放り込むとお燗がついて少々温まってきた。
 
やっと見えてきた大和盆地 (まほろば展望休憩所から)
 

 まだ、先は長いということで、40分程の休憩で先に進む。途中、ハイキングコースをはずれて踏み跡をたどり、矢田山の三角点に寄る。意外にきれいな標石で、三等三角点だった。
 ハイキングマップにも載っていない場所で、芳村さんの弁によれば「こんなに一度に大勢の人がここに来たのは有史以来のことだろう」とのこと。そりゃちょっとオーバーな。

 コースに戻り、なおも北上する。道は相変わらず広いが、次第に下っていき、ため池のそばの木造の新しい建物のそばに出た。ため池の名は「峠池」、建物は「子ども交流館」というらしい。あたりには芝生広場などもあって、公園のようになっている。

 

矢田山三角点

 峠池の池の端を通り、東明寺標識を見送って車道に出る。舗装はしてあるが細い車道で、少し下り気味に降りていく。ふと谷を覗くとゴミがいっぱい捨ててある。途中「監視カメラ作動中」の看板があって、何かと思ったがこれのことだったのか。
 車で入れる山間地はどこもゴミの不法投棄に悩まされる。特に街に近い所は狙われやすい。地元の人々に親しまれている場所だけに悲しい感じだ。
 しかし、あの監視カメラってどこで監視しているのだろうか。
 
 車道から「滝寺」の手書きの看板に導かれて、山道を少し下ると祠があった。でも良く見ると祠ではなく、岩の壁の前に柵と屋根を付けたようなものだった。木の柵には扉があって、すでに何人かが中に入っている。続いて入ると目の前には石仏があり、その後は岩壁になっている。

 滝寺廃寺の磨崖仏というらしく、石仏は新しいが、岩壁に彫られた磨崖仏の方は古く、八世紀頃のものらしい。岩壁に四角い凹みが幾つか彫られ、中に三尊仏が浮き彫りになっているが、かなり摩滅していてほとんど仏の形が分からない。貴重なもので、普段は扉に鍵が掛かっているらしいが、なぜか今日は開いていた。運がいいこと。

 車道を再び峠池まで戻り、東明寺に向かう。途中指差し付きの道標があり、石仏の大家、島田さんが解読を試みる。「すぐそこローソン・・・」なんじゃそりゃ。 皆、大笑い。
  道標の側面には大阪天満の寄進者の名前も彫ってある。

後ろの岩に磨崖仏が彫ってある
 
 切り通しのような坂道を下ると東明寺の裏に出る。寺から少し下ると長い注連縄が谷に渡してあった。長さは50mくらいあるだろうか。注連縄の途中から細い縄が何本も下がっていて、紙垂と松葉が付いている。 「勧請掛け」と言うらしいが、芳村さんが下見をしたときには無かったそうだ。注連縄が結んである斜面を見上げると古い縄が残っていたので、毎年取り替えられるのだろう。

 家に帰ってから民俗学の本を調べてみると、「勧請縄」として近畿地方に見られるもので、集落の入口の道を横切るように張り渡し、災いの進入を阻止するためのものらしい。祈祷文を書いた勧請板を注連縄の中央に吊り下げるところから勧請縄と言われるらしいが、勧請板のないものもあるとのこと。ここのは後者のようだ。
 
勧請掛け
 柿の木の似合う、いかにも大和らしい集落を抜けると、田んぼの中に「三の矢塚」がある。「二の矢塚」と同じく小さな石があるが、そばに「邪馬台国想定地」という大きな石碑があって、ちょっと見にはこちらの方が三の矢塚のように思えてしまう。
 矢田坐久志玉比古神社の神主さんの奥さんが「信じないで下さいね」と盛んに言っていたのはこれだったのだ。こんな立派な石碑だと「邪馬台国」の遺跡だと思ってしまうよなあ。
三の矢塚から大和民俗公園へ帰る
 
 田んぼを横切り、竹林の横の土の道を抜けるとじきに出発点の大和民俗公園の北端に出た。

 ここで梅原さんからコーヒーの接待を受ける。木立が長い影を引く芝生に座って、しみじみと美味しいコーヒーを頂き、お心使いに感謝。社寺あり、石碑あり、磨崖仏ありの盛りだくさんのハイキングを企画していただいた、芳村さんにも感謝。
 あー、大和はやっぱり歴史の密度が濃いなあ、と感じた一日でした。

美味しいコーヒーを頂く
 
まほろば展望休憩所での記念写真(アーリィバードさん撮影)

 

同行の皆さんのHPはこちら↓

アーリィバードさん   mimaさん
丹波のたぬきさん   芳村さんの矢田丘陵ガイド


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[山行日] 2004/1/31(土) 
[天気] 曇り時々時雨のち晴れ
[アプローチ] 東西名阪自動車道 大和郡山I.C. → 大和民俗公園駐車場         [約8km]
[コースタイム] 大和民俗公園駐車場 (0:20) 矢田坐久志玉比古神社 (0:30) 矢田寺本堂前 (0:40) 国見台展望台 (0:15) 松尾山山頂 (0:45) 山頂展望台 (0:05) まほろば展望休憩所 (0:15) 矢田山三角点 (0:20) 子ども交流館 (0:10) 滝寺廃寺磨崖仏 (0:25) 東明寺 (0:25) 三の矢塚 (0:15) 大和民俗公園芝生広場 (0:10) 大和民俗公園駐車    (計4:35)
・おしゃべりしながらなのでコースタイムはあくまでも参考です。
 
[地図] 大和郡山、信貴山(1/25000)


   
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