花房( はなぶさやま)                    [奥美濃] 1190m

 

 何年か前に小津権現山に登った時、隣の花房山がかっこ良く見えた。大きな山体で、谷が南側から頂上近くまで食い込み、陰影のある奥深い山のように見えた。
 昔のガイドブックを見ると、西からの尾根をたどる登山道は踏み跡程度ということだったので気にはなりながらも躊躇していたのだが、最近の記載ではノーマルルートになっているので 、まあ何とかなるだろうと行ってみることにした。

 藤橋城の後ろを回り、橋を渡るとすぐに登山口が見つかった。車も5、6台は置けそうだ。周囲にはシャガやホウチャクソウの花が出迎えてくれている。

 登山口の小さな案内板には山頂まで2時間とあるが、「2」の数字のあとに手書きで「〜3」と加えられている。
 調べてきたガイドブックもコースタイムはバラバラで、あるものは2時間半、あるものは3時間半であった。きっと2時間では難しいだろうが、2時間半ぐらいなら登れるのかもしれない。

登山口
 
ホウチャクソウ
 

 登山道はいきなりの急登。最初は杉の植林地だが、しだいにリョウブ、ミズナラ、ホオノキなどの落葉樹が増えてくる。モミの木の太いのも時々見られる。
 下層にはシロモジ、ユズリハなどが目につき雪国の森の様相だ。所々ヤマツツジが彩りを添えている。地面に白い小さな花が散り敷いていて、見上げるとウワミズザクラが咲いてい た。頭上の新緑が眩しい。

 落ち葉が厚く積った道は、週半ばに降り続いた雨をたっぷり含んでいて滑りやすい。慎重にぼちぼち登る。急な所にはトラロープが張られている。最近、道の周りの刈り払いがされたらしく、葉っぱが萎れかけた枝が道の脇に片付けられている。藪がかからず、歩きやすくてありがたい。

 遠くからアオー、アオーとアオバトの不思議な鳴き声が聞こえてくる。頭上にはカラ類のさえずりが降ってくるが、それに下界の方からオートバイのエンジン音が 混じる。

急な登りが続く
 
 傾斜が少し緩くなったあたりが760mの標高点だろうか。大杉の下で一休み。燃料補給でアンパンをかじっていたら、中年の男女混成の3人連れが登って来て先行する。今日は一人かと思っていたがそうではないようだ。

 やや広くなった稜線を少し登ると、初めて前方が開けて花房山の山頂が見えた。地図で確認するとここは標高790mのコブのようだ。
 一面の新緑だが、尾根筋に沿って針葉樹が黒く貼り付いている。まだ山頂は遠い。

花房山(左)、中央は手前のピーク
 

 ここから一旦下りになる。尾根は急に狭くなり、岩がちになる。かなり狭い岩稜のところもあるが、樹林の中ので高度感はなく怖くはない。
 岩だらけの狭い尾根の真ん中にヒノキが生えていて、抱きつくように通過する。ヒノキは乾燥には強いと言うが、よくこんなところで生育できるものだと感心する。

 先行者の歓声が聞こえたので、何かと思い近づいて行ったらシロヤシオが咲いていた。ここまで花が少なかったので急に華やかになった感じだ。

狭い尾根を行く先行者
 
シロヤシオ
 
細いブナ林
 
 周りはブナが目立つようになり、全体が明るくなってきた。しかしいつまでも登りが続く、先行者を追い抜くときにリーダーらしき男性が「あと30分くらいですかね。」と言っていたが、もうとっくにその時間は過ぎた。
 ちらちら左手の尾根が見え、その尾根とは山頂で一緒になるはずだが、これがなかなか近づかない。数は少ないもののウスギヨウラクやトウゴクミツバツツジが見られるのが慰めだ。

 どこまでも続く登りに少々疲れてきた頃にやっと周りの木の丈が低くなってきて、ぽっかりと丸いピークに出た。山頂のひとつ手前のピークで、360度の展望だ。

小津権現山
 
 左手に雪を残した能郷白山。その下には満々と水を溜めた徳山ダムが見える。その後ろの国境稜線からピークが二つ飛び出しているが、双眼鏡で確認すると、左手が冠山らしい。
 登ってきた尾根の向こうにある山塊は蕎麦粒山(そむぎやま)と天狗岳で、南側にはかつて向こうから花房山を望んだ小津権現山。花房山の山頂から小津権現へはパステルカラーの明るい稜線が伸び、 その後ろには舟底型の伊吹山がシルエットで浮かんでいる。
徳山ダムと能郷白山
 
 山頂へは少し下って登り返す。少々笹がかぶっていて藪こぎの真似ごとをする。

 やっと山頂到着。3時間5分かかってしまった。予想外に時間がかかった。山頂は周りが刈り払ってあって、北側の小津三山のもうひとつの雷倉がよく見える。

小津権現山
 

 ラーメンを食べかけたら、途中で追い越した三人連れが登ってきた。こちらもかなりお疲れの様子。先週は平家岳に登ったそうで、先週より今日の方が大変だった とのこと。なかなか山慣れた人たちのようで、周りの山の名前がどんどん飛び出す。言葉から判断すると、尾張か岐阜あたりの人たちのようだ。
 

 帰りは同じ尾根道をひたすら 真っ直ぐ下るだけ。
 こういう変化のない下るだけの道は途中で休むきっかけがないので、休まず歩いてしまうことが多い。そんな翌日は筋肉痛で苦しむことになる。今回もおそらくその口だろう。

 ひたすら下って、登山口に帰り着く。下りは2時間だった。

タニウツギ

    帰る前に徳山ダムまで行ってみた。もっと観光客でいっぱいかと思ったが、それほどの人手ではない。さすがにこんな山奥まで来る人は少ないようだが、駐車場は狭いので車で一杯だった。

 25年くらい前に冠山に登りに来たことがあったが、その頃にはまだ徳山村があって、帰りに集落を抜ける時、家々に明かりが灯っていたのが映画の1シーンのように記憶に残っている。

 また、ダムの工事が始まった頃にアウトドアショップの催しで揖斐川のカヌー下りに来たこともある。廃村になった徳山村小学校の前の河原でキャンプをしたのだが、夜の闇が深かった。
 その小学校も集落も、皆ダム湖の下に沈んでしまった。

 長良川河口堰と並んで、その必要性が争われた徳山ダムだったが、とうとう出来てしまった。当事者ではない自分に何も言う資格はないが、静かな湖面を見つめていると、周囲の明るい山々とは対照的に、心の底から湧き上がってくる感慨は深く重い。 

徳山ダム堰堤上からの花房山

 

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[山行日] 2009/5/9(土) 
[天気] 快晴
[アプローチ] 名神高速道路大垣I.C. 7:00 (揖斐川右岸道路)→ 揖斐川町 →(R303)→ 横山ダム →(R417)→ 藤橋城 → 8:05 花房山登山口   [約50km]
 
[コースタイム] 8:20 登山口 (1:15) 706m標高点 (0:15) 790mピーク (1:25) 11:25 花房山山頂 12:05  (1:00) 790mピーク (0:50) 登山口 14:00    (計4:45)
[地図] 美濃広瀬、樽見(1/25000)

 

[ガイドブック] こんなに楽しい「岐阜の山旅100コース」 風媒社
 
[温泉] いび川温泉 藤橋の湯  
・道の駅「星のふる里ふじはし」に併設。
・入浴料500円。石けん、シャンプー、ドライアーあり。
・脱衣所、浴室とも広い。
・ちょっとぬるっとしたお湯。

・男湯女湯を1ヶ月サイクルで入れ替えているらしい。
露天風呂あり。ヒノキ浴槽の露天風呂だったが、女湯の方は岩風呂らしい。

   
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