平ヶ岳( ひらがたけ)                         [上信越] 2140m


越後駒ヶ岳から続く

 越後駒ヶ岳に予想外に苦戦したので、7時近くになってようやく清四郎小屋に着いた時、宿の親父さんが心配そうに外に立っていた。明神峠から到着が遅れる旨の電話をしていたが、親父さんの予想よりもさらに到着が遅かったので、何かあったのかと思ったそうだ。
 風呂や食事はさておき、とりあえず明日の予定を決めなければならない。天候が心配だったが、「明日は曇りだ。」と親父さんは断言する。そうなると問題はこちらの体調だけだ。下山で脚を痛めてしまったKaさんは早々とリタイア宣言。駒の途中で登頂を断念したMaさんも迷っている。せっかくはるばる新潟まで来て、平も駒も 山頂に立てずに帰るのではあまりにも寂しい。
 いろいろ悩んだ結果、中ノ岐(なかのまた)林道を登り鷹ノ巣に下山する当初の計画を変更し、Maさんがばてても一緒に降りられるよう、中ノ岐林道から平ヶ岳をピストンすることにした。本来、清四郎小屋に泊った客は鷹ノ巣に下るのが普通なので、登山口まで送ることはするが、迎えには行かないというのが原則だそうだが、そこを無理にお願いして送迎してもらうことにした。
 しかも、一般の人は12時までに下山するのだが、弱足パーティーなので1時お迎えにしてもらった。「午後になると雨が降りやすく、降り出すと岩山なので一気に谷の水位が上がり、登山口近くの沢が渡れなくなる 。」と、早めの下山を勧める親父さんも、今日の様子で僕らのレベルが分かっているので不承不承、1時下山を承知してくれた。

 さて当日は4時出発。不思議と天気は良さそうだ。まだ薄暗い中を宿泊客は2台の車に分乗し、登山口まで送ってもらう。国道を銀山平方面へ戻り、奥只見湖に流れ込む中ノ岐に架かる雨池橋のたもとから、一般車通行止めのゲートを開けて中ノ岐林道に入る。林道は未舗装で山からの流水が所々路面を洗っている。
 車窓左手は滝あり早瀬ありの変化に富んだ沢で見ていて飽きない。二岐川と思われる沢の出会い付近は滑滝が連続していて、奥秩父の笛吹川東沢を思わせる景観だ。

 

 林道終点は広場になっていて、既に銀山平の宿から登山客を乗せてきた車が数台止まっていた。小屋で作ってもらった朝食代わりのおにぎりを 、取り敢えずの腹ごしらえに一つ食べて出発する。 今のところ天気は上々で、陽も差している。
 しばらく沢の左岸を進み、細い板橋で沢を渡る。この橋は最近できたもので、それまでは渡渉するしかなかったそうだ。急な雨で増水すると渡れなくなると小屋の親父さんが忠告したのはこの橋のことだ。

沢を渡る
 

 沢を渡ると道は支尾根に取り付き、ぐんぐん高度を稼いでいく。30分程で根上がり桧のある見晴らしの良い場所に出て一休み。すぐ上には曲がりくねった桧が何本も立っている。谷の対岸には険しい沢に雪渓が残っている。

 

桧の巨木 谷の向こうの雪渓
 

 登山口まで送ってくれた小屋の親父さんの話では、昭和50年代の初めの頃まで中ノ岐林道周辺で伐採をしていたそうだ。主にブナを伐ってい て、 伐った木を周りの斜面から索道(ワイヤーケーブル)を使って下ろし、トラックに積み替えてこの狭い林道により搬出したそうだ。 今は登山口の広場から見上げると、尾根だけに商品価値のなさそうな曲った桧やシラベが残され、ブナを伐り出した斜面は一面、広葉樹の二次林になっている。
 少し登った所に珍しくブナが伐り残されていたが、少し上がるともう針葉樹林帯に入ってしまうので、登山道の周りでブナが見られたのはそのあたりだけであった。
 

左から中ノ岳、越後駒ヶ岳、灰ノ又山(手前の台地状の山)、荒沢岳

 道はずっと樹林の中を進んでいくが、一か所だけ小さなザレ場があって、北の方の展望が開けた。昨日登った越後駒が遠くに見える。山頂直下の雪庇の溶け残りが目印だ。予想外の展望で、めったに見ることのできない越後の山々が眺められ 大満足感。
 展望はここで十分楽しめたのだが、実は昨日の道行山と同じで、この後はどんどん雲が湧いてきて、遠望が利いたのはここが最後になってしまった。

稜線をなだれ落ちる雲の滝
 

 道は尾根から山腹に取り付いた感じで、周りはシラビソ、コメツガなどの針葉樹主体になってくる。それも登るにつれて、背が低くなり、気が付くとハイマツが混じる高山帯の様相になってきた。

 と、ひょっこり湿原の片隅に飛び出した。急に目の前 の塀が倒れ、天井がぱっかりと開いたようだ。 湿原の向こうにはなだらかな谷を隔てて、文字通り平べったい平ヶ岳の山頂部が広がっている。湿原にはキンコウカが揺れ、タテヤマリンドウが青い瞳を開いている。風は涼しく、陽射しは柔らかい。
 これぞ、山上の楽園。思わず笑みがこぼれてくる。長い間あこがれていた遥かな山の一角に立っているのだ。

一面のキンコウカ。背後が平ヶ岳山頂。
 

 山頂まではまだ40分程歩かなければならないのだが、心はもうお散歩気分。丁寧に敷かれた木道の上を花や景色を楽しみながら行く。

 池ノ岳の手前で右に折れ、いったん沢の源頭に下る。沢が水場になっていて、広くデッキが敷かれているので、ここがかつてのキャンプ指定地なのだろう。沢を渡って稜線に上がった所にまた湿原がある。
 池ノ岳からの道を合わせ、最後の登りにかかる。低いシラビソの森の足元にはゴゼンタチバナが咲き、シャクナゲも咲き残っていて、わずかな彩りを付けている。

モウセンゴケが縁取る池塘
 

ミヤマツボスミレ? アサマフウロ

 森から出ると木道が傾斜のついた湿原を登っている。池塘の点在する湿原を登り切るとそこが山頂。三角点は湿原から少し入った木立ちの中にある。 昨日山頂に立てなかったMaさんと握手。昨日より行程が短く、今日はまだ余力がありそうだ。ひょっとしたら、ピストンではなく、鷹ノ巣への下山も可能だったかもしれない。

 中ノ岐林道からの登山道は皇太子さんが登ったことで世に知られるようになったが、今でも林道に入れるのは地元の車に限られており、銀山平などの宿に泊まらなければ利用できない。皇太子さんは登りは中ノ岐から登ったが下りは鷹ノ巣コースをとったので、僕らは皇太子さんにも負けている。

山頂まであとわずか
 
平ヶ岳山頂にて
 
トンボウソウ

 残念ながらガスが広がってしまい、尾瀬の至仏、燧、会津駒などの山々は見えない。暑くもなく、寒くもないガスの中。朝食と同じおにぎりを頬張る。一瞥しただけではあまり花は多くないように見えるが、目を凝らすとキンコウカやネバリノギランの他にもトンボソウやツルコケモモなど小さな花が見えてくる。
 地図によれば平ヶ岳の最高点は三角点よりも西寄りのところにあるようで、木道も先に続いているが、展望もないので、まあここまでにしておこう。遥かな山だと思っていたが、中ノ 岐林道を使えば予想以上に簡単に入れるし、ひょっとしたら、また来ることができるかもしれない。そんな気になってくる。

 山頂からは来た道を戻り、最初の湿原から下山する前に 、一つ先のピークにある玉子石に寄る。玉子石は平ヶ岳のシンボルだが、山頂からはずいぶん離れている。
 上に乗った丸い石は直径1.5m位で、一つの石が風化して上下二つに石になったような感じだ。背後に見える湿原がいかにも北の山の山上らしい。
 いつまでも眺めていたいが時間制限があるのでそうもいかない。でも、時間的にはまだ余裕はある。やっぱり1時間お迎えを送らせてもらっておいて良かった。こんな素晴らしいところで時間に追われるなんてもったいない。

玉子石
 

 下りは全く順調で、Maさんもリズミカルに下っていく。花の写真を撮り、谷で汗を拭いてゆっくり下ったが、お迎えの予定時刻より40分も早く下りてくることができた。
 愛知県からはなかなか遠い新潟の百名山ふたつ。天候が心配されたがなんとか無事登頂できた。これも、発案していただいたMoさんや同行していただいた皆さんのおかげ。感謝、感謝。

 

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[山行日] 2009/8/1(土)
[天気] 晴れのち曇り
[アプローチ] 清四郎小屋 4:00 (送迎車 1:30)5:30 中ノ岐林道終点
      
・林道終点は広場になっており、簡易トイレ、水場あり。
[コースタイム] 5:45 中ノ 岐林道終点 (2:20) 玉子石分岐の湿地 (0:40) 9:05 平ヶ岳山頂9:35  (0:40) 玉子石 (1:30) 中ノ 岐林道終点 12:20  
(登り:3:00+下り2:10=計5:10)
[地図] 平ヶ岳 (1/25000)

 

[宿] 清四郎小屋
・新潟県魚沼市鷹ノ巣の平ヶ岳登山口にある小屋。奥只見湖の奥。もう少し奥に入ると尾瀬。
・1泊2食付き7,500円。
・露天風呂あり。
・中ノ岐林道平ヶ岳登山口まで2,500円/人(7人以上)で送ってもらえる。
民宿樹湖里(きこり)
・新潟県魚沼市銀山平温泉にあるログハウスの民宿。ログハウスのコテージ(左写真)もある。
・1泊2食付き7,800円。
・風呂は近くの日帰り温泉「白銀の湯」も無料で利用できる。(朝風呂も可。)
・食事は山の幸たっぷり。おいしい地酒も置いてある。

   
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