野伏ヶ岳( のぶせがたけ)                    [白山周辺] 1674m

 

 野伏ヶ岳はずっと前から行きたい山だった。
 最初に知ったのは隣の薙刀山(なぎなたやま)の方で、30年以上前の山渓に山スキーのコースとして紹介されていた。野伏ヶ岳を知ったのはその後で、野伏ヶ岳のほうが高くて格好がよく、こちらに興味が移った。
 しかし、なにせ石徹白は山奥で、簡単には行けない。しかも登山道が無いので残雪期にしか登れない。残雪期はちょうど年度末、年度始めにあたり毎年忙しい。しかもそのうち花粉症になってしまい、気力が湧かない季節になってしまった。と言う訳で、野伏ヶ岳はずっと憧れのまま棚上げになってしまった。

 地図を見ると薙刀山、野伏ヶ岳の東になだらかな台地のような地形が広がっている。以前は牧場として使われていたようだが、今は何も無いようだ。ここまでは牧場の頃使われていた道路があり、クロカンゲレンデとして面白そうなので10年ほど前に行ったことがある。そのときは牧場にたどり着いたとたんに吹雪になってしまい、雪原を歩き回ることはできなかった。

 さて、今年は3月に毘沙門岳に登り、野伏ヶ岳や石徹白付近の雪の状況を確認することができた。しかも今年は記録的に花粉の飛散が少ない年。おまけに職場の異動もなく 、例年ほどの忙しさはない。今年行かなくていつ行く、ということで天気を狙って出かけることとなった。
 あー、長い前置きだこと(^^;

 石徹白の白山中居神社の駐車場に車を止めて歩き始めたら、石徹白川の橋のところに駐車場が出来ていた。前に来たときはこんなものは無かった。

 まだスペースがあったので、戻って車を移動させた。橋のたもとには「ようこそ春山登山へ」なんて看板も立っている。渓流釣りの車の方が多いのだろうが、野伏ヶ岳の登山者もかなりいるようだ。

石徹白川のたもとからわずかに野伏ヶ岳が望める
 

 砂防工事のためかしばらく除雪がされた道だったが、沢にかかる橋を渡ったあたりから道に雪が現れ始めた。雪の上はかなり踏み固められている。わずかにスキーの跡もあるがいつごろのものだろう。道の脇には石垣が残っているが、路面の状態はかなり荒れているようで、とても車では通れない。一部は沢のようになって雪解け水が流れていた。

 時間が遅いためなのか、それとも登山者が少ないのか、誰にも会わない。道は杉の植林地の中をジグザグに上がっていくが、ところどころショートカットの踏み跡があるのでそれを利用させてもらう。牧場まで1時間と見積もっていたが、杉林はどこまでも続く。少々時間が気になって来た頃、何度かのショートカットの末に空が抜けるような感じで、牧場にたどり着いた。
 

           ↓野伏ヶ岳               ↓薙刀山          ↓願教寺山 ↓三ノ峰 ↓銚子ヶ峰          ↓丸山      ↓芦倉山
                                旧和田山牧場の雪原からのパノラマ
 
 たどり着いた台地は想像以上に広く、雪原がなだらかな起伏で続いている。広々として歓声を上げたいくらい気持ちがいい。
雪原の向こうに野伏ヶ岳がそびえ、その右に薙刀山が控えている。雪原を取り巻くように白い山々が並んでいて、右端の丸山、芦倉山がこれも見ごたえのある山容をしている。
 

 雪原の端の林の中にテントが2張見える。雪原の向こうから歩いてくる人を見たら、足元は長靴だった。歳の多い山慣れた感じの人だった。スキーで歩いてくる人にも出会った。
 やっぱり登山者が少ないのではなく、僕の登り始めが遅いようだ。少し急ぎ足になる。

 大黒山の北の山裾に沿って踏み跡が続いている。雪原の真ん中を歩いてみたいが、先を急ぐ。
 それにしても、気分のいいところだ。右手は夏は池になるのか、広いくぼ地のまわりにミズナラかハンノキらしき大木が並んでいる。その向こうに薙刀山がのぞき、歩くにつれて正面の野伏ヶ岳が大きく迫ってくる。
 

野伏ヶ岳が近づいてくる

 

  左手にも池らしき窪地が現れ、その先がダイレクト尾根の斜面になっている。尾根は窪地を回りこんだ南側から始まっているが、迂回すると時間がかかりそう。どうしようか迷っていたら、二人の先行者に続いて、先程雪原で写真を撮っていた 単独行の女性も直接尾根の斜面に取りいたので、それに続くことにする。

 先行者だけでなく、かなりの踏み跡が付いているので、よく辿られるルートなのだろう。ステップがあるので、急傾斜だがなんとか登っていける。
 先行の3人は右手の方へどんどん登っていくが、傾斜がきつそうなので、早めに左手に逃げて尾根に上がる。

 

先行者に続きダイレクト尾根の斜面に取り付く

 
 稜線に上がると尾根の遥かに山頂が覗いている。遠いなあ。雪原を急いだのが効いてきて少々足が重い。まだ1時間くらいかかりそうだ。稜線の向こう側はカールのような斜面が野伏の隣の小白山 (おじろやま)に続いている。野伏ヶ岳、小白山、薙刀山は石徹白三山とも呼ばれているらしい。

 尾根の上は所々にブナが生えていて、割合太いものもある。そのブナも登るにつれて少なくなり、雪だけの尾根になる。木のない急な傾斜のところもあるが、尾根が広いので恐怖感はない。振り返ると眼下に牧場の雪原が広がり、雪解けの沢が曲がりくねった模様を描いている。
 

牧場を見下ろす

 
  前方の斜面に人影が現れ、よく見るとスキーの人がいる。近づくとわかんを履いている人もいた。ジグザグに登っているので追いついてしまったようだ。わかんも急な斜面では歩きにくそうだ。雪面は柔らかいが潜ることはないので、壺足でも充分登っていける。下山してくる人も多くなり、もうすぐだと励まされる。こんな 道のない奥深い山なのに、中年以上に見える夫婦連れが多いのは、ブームとはいえ驚かされる。

 最後の急な斜面を力をふりしぼり、両方のストックに体重をかけて体を引き上げる。右からの尾根を合わせると山頂は目の前。予定の正午に10分遅れて頂上 に到着。丸い丘のような山頂にはすでに何組ものグループが宴を開いていた。
 

荒島岳
 
薙刀山(左手前)と別山(奥の白い山)
 
 既にここより低くなっている薙刀山。その向こうに続く尾根が、大日ヶ岳から続く尾根に合わさった先に、真っ白な別山と白山が薄曇りの空に溶けている。手前のコブのようなピークが三ノ峰だろう。谷を挟んだ 西側は赤兎山と大長山。その左に並んだ峰は経ヶ岳だろう。さらに左手には逆光に荒島岳がひときわ白く美しい。

 薄曇りながら360度の大展望。しばし、登頂の感慨に浸る。風がなく、陽射しも弱く、寒くも暑くもない。見えるもの すべて白と灰色だけの世界で、時さえも止まっているようだ。腰を下ろしてラーメンをすすりながらぼんやりと山々を眺める。
 

 下山には要るかもしれないとアイゼンを持ってきたが、雪がかなり緩んでいるので、壺足で下ることにする。尻餅をつくとそのままシリセードでずり落ちてしまうので、ストックを長くしてスピードを殺し、踵でステップを切りながら慎重に下る。
 スキーヤーも慎重に牧場へ続く急な斜面を滑っていく。

 ダイレクト尾根を最後まで下りて大黒山の南を回るルートもあるようだが、登りのルートを忠実に戻 り牧場まで降りてくる。 

ダイレクト尾根を見下ろす
 

  斜面の下りは足を出していけば降りて行けるのだが、牧場の平坦地は歩かなければならず、これが堪える。緩んだ雪に足をとられ、ストックにすがりながら牧場の端を目指す。「拓牧碑」のところで一休みし、最後の展望を楽しむ。

 また、来ることがあるだろうか。今度来るならば、まだ果たせていないクロカンの雪原散歩になるだろうな。そんなことを思いながら周りの景色を目に刻んだ。

 

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[山行日]   2004/4/11(日)
[天気] 薄曇り
[アプローチ] 東海北陸自動車道白鳥I.C. →(R156)→ 郡上市前谷 →(県道)→ 石徹白(白山中居神社先の川原の駐車場)   [約25km]

・白山中居神社先の石徹白川にかかる橋の両岸に駐車場あり。30台以上駐車可能。
[コースタイム] 8:50  登山口駐車場 (1:20) 旧和田山牧場 (0:30) ダイレクト尾根の直下 (1:25) 野伏ヶ岳山頂 (0:45) ダイレクト尾根の直下 (0:30) 旧和田山牧場 (0:50) 登山口駐車場 15:05     (計5:20)
[地図] 石徹白、二ノ峰、願教寺山(1/25000)
[装備] ダブルストック、(アイゼンは持っていったが使わず)

 

 [温泉] 満天の湯   TEL0575-86-3487
・白鳥高原スキー場入口の向かいにある温泉。
・入浴料 700円
・ボディーソープ、シャンプー、ドライアーあり。
・露天風呂の外はウイングヒルズスキー場。もう少し回りの樹が少ないと野伏ヶ岳がよく見えるのに、残念。

   
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