火打山(ひうちやま)                      [上信越・頸城] 2462m

 

 黒沢に架かるまだ新しそうな橋に着いたときに、少しやばいなと思った。登山口からここまでのガイドブックのコースタイムは40分。ブナ林の中に敷かれた木道の歩きやすい道だったが、50分かかってしまった。10分オーバーだ。 笹ヶ峰から火打山頂ピストンのコースタイムは登り5時間05分、下り3時間40分。朝飯のコンビニおにぎりを食べながら、日帰りピストンは厳しいのかなあ、と考えていた。

 火打山に来るのは何と27年ぶり。まだ結婚する前の女房と二人で来た。その時は天気が悪くて火打には登らず、高谷池ヒュッテに1泊した後、天候が持ち直した中を、妙高山だけ登って燕温泉に下山した。それ以来ずっと登る機会がなかった。
 しかし、おととしの夏、念願の高妻山を登り終えたので、戸隠周辺の山でとうとう火打が最後になってしまった。今回は、女房は黒姫高原のペンションで犬と一緒に過ごし、自分だけでピストンということになった。

ブナ林の中の木道
 

 当時はまだ若かったからなあと、おにぎりを食べ終えて腰を上げる。その間、何組もの登山者が橋を渡って行った。

 橋を渡ると十二曲のつづら折りの道になる。そんなに急な道ではない。途中、ブナの枝先の間から、白馬が見えた。朝日岳から南に鹿島槍まで 、後立山の峰々がずらりと見える。うす雲は出ているが天気は良さそうだ。

黒沢
 

 つづら折りを登りきると尾根に出た。日陰の斜面からいきなり明るい尾根に出て眩しい。今日始めて朝陽を浴びる。ここに十二曲の標識が立っていた。このワンピッチはコースタイムよりかなり早い。急に気分が軽くなってきた。

 尾根道は所々急なところもあったが、概ね歩きやすい。ブナからツガの森に変わったあたりで、二つ目のおにぎりを食べる。刺激があった方が食べやすいだろうと、ドライカレーのおにぎり。 27年前はこんな物は無かった。

尾根道から振り返ると高妻山
 

 道が緩やかになって森から出たところが富士見平の分岐だった。標識の周りで休憩している人が多いが、調子が出てきたので休まずに進む。

 黒沢岳の西側を巻くように道は付いているが、若干のアップダウンはある。富士見平と高谷池の半ばくらいのところで、初めて火打が見えた。緑の山体に残雪が鮮やかだ。奥には焼山も並んでいる。

火打山(右)と焼山(左奥)
 

 
 巻き道が終わると草原になり、まばらな針葉樹の向こうに北アルプスの展望が広がる。目を凝らすと、かすかに槍の穂先も見える。

北アルプス白馬三山
 

 すぐに高谷池ヒュッテに到着。帽子を顔の上に載せて、ひとりの男性がベンチで眠っているだけで静かだ。いいペースで来ているので余裕はあるが、写真を1枚撮っただけでここも通過。

 高谷池を半周して登りにかかると、池全体が見下ろせる。湿原の中に池塘が点在し、空を映している。以前と変わらない、絵のような風景だ。
 唯一違うのは、ヒュッテの屋根がこげ茶色に変わったこと。昔は確か赤かった。

高谷池
 

 登りきると天狗の小庭。左右からのなだらかな斜面に挟まれた窪みに木道が伸びる。楽しみにしていたハクサンコザクラはあまり多くない。もっと花が多かったような記憶があるが、はっきりしない。

 人が踏み込まないように木道の両側にロープが張ってあるが、ロープの外で裸地になっているところも目立つ。高山では 登山者が一番の自然の破壊者である。まだ、低木性のツガザクラやアオノツガザクラが多く残っているのが、救われる。

天狗の小庭
 

 

ハクサンコザクラ ツガザクラ(白)とアオノツガザクラ(黄緑)
 

 道は下りになり、眼下に高谷池よりはるかに広い湿原が広がる。ここが天狗の庭。山上湿原は北の山の象徴だ。山の上の開けた空間が開放的で、しかも少し寂しげで、湿原は大好きだ。湿原の端に設けられた木道をぽくぽく歩くと、気分は晴れやかで、しかも落ち着いてくる。
 湿原はワタスゲの綿帽子でいっぱい。ワタスゲに縁取られた池塘には頬っぺたに残雪を付けた火打が映っている。思わず両手を広げて風をいっぱいに受け止めたくなる。

 

池塘に映る火打山
 
ワタスゲ
 

 ここから先は初めて歩く道。気分はとてもリラックスしてしまったが、まだ山頂まで登りはある。高妻山の最後の鞍部からの登りほど急ではないが、距離はありそう。
 ジリジリ陽に焼かれて、少しずつ歩を進める。所々ダケカンバやハンノキが登山道に日陰をつくってくれてありがたい。

 登るにつれて草原性のお花畑が広がる。ミヤマキンポウゲの黄色い花が目立つ。一部には木道が設置され、その脇の裸地化したところに植生回復が図られている。
 ハイマツも目に付くようになり、このあたりにはライチョウもいるそうだが、今日は天気が良すぎるのか、出てくる気配はない。
 背後にトップライトに黒く沈んだ妙高が競り上がってくる。

お花畑の背後に妙高山
 

 木道が終わり、ハイマツをひと掻き登ると山頂だった。砕石がばらまかれたような丸い広場で、中央に積まれたケルンが無いと山頂とは思えない。10人程の登山者は、丸い広場の縁に三々五々、座っている。
 
360度の大展望ではあるが、だいぶ霞んできて北アルプスの方はぼやけている。日本海も海岸線がぼんやりと見えるくらいで、水か空かはっきりしない。

山頂のケルン

 唯一はっきり見えるのはお隣の焼山で、 火打よりも少し高い。釣鐘状の山体には火山らしく、噴出物が流れたような溝が幾つも刻まれている。

 焼山は新潟県唯一の活火山ということで、かつて人命を奪うような噴火をしたことがある。

焼山
 

 焼山は1974年の夏に突然噴火し、火打との鞍部にテントを張っていた登山者3人が亡くなっている。その人は僕の大学の同じ学部の人である。僕が大学に入る前の話だが、その不思議な縁のことは以前「星野道夫のこと」に書いた。
 今も焼山は立ち入り禁止になっているが、目の前の焼山は山頂付近からかすかに噴煙を上げているだけで、そんな荒々しいことがあったことなど微塵も感じさせず、静かに佇んでいる。

 さて、時間はたっぷりある。下山はのんびり下ろう。花の写真でも撮りながら、笹ヶ峰に戻ろう。


 

マルバタケブキ
 
ヒメシャジン

クルマユリ アサギマダラ
 

 

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[山行日] 2008/8/2(土)
[天気] 晴れ
[アプローチ] 黒姫高原 → 杉の沢 (県道39号)→ 笹ヶ峰    [約17km]
      
・登山口のすぐそばに30台ほど、少し離れて広大な駐車がある。料金無料
[コースタイム] 5:50 火打山登山口 (0:50) 黒沢出合 (0:30) 十二曲 (0:40) 富士見平 (0:40) 高谷池ヒュッテ (0:20) 天狗の庭 (1:10) 火打山山頂 (1:20) 高谷池ヒュッテ  (0:35) 富士見平 (0:35) 十二曲 (0:25) 黒沢出合 (0:40) 火打山登山口  15:05    (計7:45)
[地図] 妙高山、湯川内 (1/25000)

 

[宿] ペンション「あいぼう」
・黒姫高原にあるペンション。
・うちのような屋外犬もデッキで泊まれるのでうれしい。建物の裏は広いドッグランになっている。
・地ビールが飲める「信濃ブルワリー」まで歩いていける。ここは、外のデッキなら犬もOK。(現在は営業していないらしい)

   
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